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 「待機児童ゼロ」で横浜市が高く評価される一方、884人と過去最高を更新した世田谷区には厳しい視線を寄せた報道も目立った。ところが、「待機児童数」の数え方が、自治体によってまるで違うのを御存知だろうか。「メートル法の数値」「尺貫法の数値」を突き合わせて、数値だけで多い、少ないと言っているようなもので、仮に横浜市の待機児童算出方法にならうと、あっという間に世田谷区も400人以下となる。単純素朴だが、重要な議論の前提だ。

数え方次第で「待機児童」半減?

4月末の記者会見で、世田谷区の待機児童数を発表しました。過去最多の「884人」です。その後、横浜市が「待機児童ゼロ」を発表すると、「認可保育園の株式会社参入」に注目が集まり、私のところにもメディアの取材や質問が相次ぎました。

 横浜市の待機児童解消に向けた精力的な取り組みには敬意を払うところですが、この問題を議論する前提について疑問があります。というのも、待機児童数のカウントの仕方が自治体によって相当に違うからです。

 世田谷区では、待機児童数を国の基準にならっています。国の基準では、認可保育園へ入園を希望しながら入園できていない児童数(4月1日現在、1865人)から、「保育室」「保育ママ・家庭的保育事業」「認証保育所」「幼稚園預かり」などのケースを差し引いて算出しています。

 こうして出された世田谷区の待機児童884人のなかには、認可保育園に申し込みながら入所できず育児休業を延長した「育児休業延長中」(142人)、「自宅で求職活動中」(203人)、「私的事由」(自宅のある出張所などの管内に認可保育園、保育室、認証保育園、保育ママなどの空きがあるのに利用しない/152人)といったケースが含まれています。

 ところが、横浜市では、こうしたケースを「待機児童」とは見なさないのです。ただ、世田谷区では「待機児童」と見なさないものの、横浜市では「待機児童」という逆のケースも一部にはあるようです。いずれにしても、横浜市の算定方式で数え直すと、世田谷区の「待機児童」は約400人となり、半減することになります。

 自治体によって、待機児童の算出方法はバラバラなのです。東京23区と5政令指定都市について調べた東京新聞(4月26日付朝刊)によると、「保育ママ」に預けた場合は28市区とも「待機」とは見なさず、「ベビーホテル」に預けた場合は24市区が「待機」と見なす、という具合です。

 なぜ、このようなことが起きているのでしょう。

 5月27日、私は保育待機児童問題に携わる区の幹部を伴って、厚生労働省の石井淳子雇用均等・児童家庭局長に会いました。その場で、こう問いかけたのです。

「自治体によって待機児童数の算出方法がまるで違う。算出方法を変えるだけで、待機児童数は大幅に減ったり増えたりする。子育て世代に正確な情報を提供するのが自治体の役割だと思う。厚生労働省は責任を持って、待機児童数のより詳細な基準を示して実態を把握すべきではないでしょうか」

 石井局長は、こう答えました。

「国としては統一基準で調査票を配布して調査をしています。あとは、市町村次第です」

 5年間で「待機児童ゼロ」を目指すという安倍内閣。その担当局長はあくまで、自治体の判断に委ねる、と言わんばかりです。ただ、こうも話しました。

「これから始まる新制度では潜在的な保育ニーズの把握が重要であり、的確に把握できるように、自治体間のズレがあれば正していきたい」

 どうやら、2015年に新制度が始まるにあたっての課題として受け止めている、ということのようでした。

 しかし、待機児童問題は目の前に迫った切実な課題です。メートル法と尺貫法という異なる定規で計測した数字を比べて、待機児童が「多い」「少ない」と論評していること自体、問題への対策を歪めかねないのではないでしょうか。実態とズレた不正確な事実をもとに「待機児童ゼロ」を打ち出せば、本質的な問題を見落とさないとも限りません。

 さて、待機児童問題をめぐっては、このとき、もうひとつ重要な点が議論になりました。「認可保育所における株式会社参入のあり方」についてです。これについては、次の機会に詳しく書こうと思います。

「数え方次第で『待機児童』が半減?」(「太陽のまちから」2013年6月11日)



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