漫画研究者としても知られる四方田犬彦の、あくまで極私的な漫画史、という体裁になっている。いかに「ガロ」「COM」という雑誌が漫画というメディアにおいて大きな存在だったかが痛切に感じられる。
あ、お若い読者はこの漫画誌を知らないか。ほら、朝ドラ「ゲゲゲの女房」で村上弘明が演じた深沢さんという人物がいたでしょう?彼が「ガロ」の発行人、長井勝一のモデルなんです。
ついでにいうと、斎藤工が演じた小峰がつげ義春。「COM」は手塚治虫の肝いりで始まった雑誌で、岡田史子、あだち充、やまだ紫らを輩出。
佐々木マキ(わたしは村上春樹の本でしかなじみがない)から岡崎京子に至る漫画界のイノベーターたち。その多くが悲惨な末路をたどっていることにたじろぐ。前衛の表現者とはそんなものなのだろうか。
ガロという雑誌が、白土三平の「カムイ伝」を連載するためにまずあり(COMは火の鳥を連載するため)、また、つげ義春という存在が圧倒的であったことが、良くも悪しくも日本の漫画の方向性を決定づけたことが理解できる。
思想的、政治的であることと、逆に日常的、微温的エッセイまで描くメディアに育ったのは、やはり白土三平とつげ義春によるところが大きい。
COMは、手塚治虫の影響が強く、あのスマートな描線を多くの作家が維持しているあたり、やはり雑誌の色というものは(のちの少年ジャンプをふくめて)あるんだなあと納得。
そして今、ガロは分裂し、COMも存在しない。日本の漫画の前衛は、どこにあるんだろう。
多すぎて7136