かの有名な山中貞雄の遺作を初めて拝見。
冒頭から長屋に住む浪人の首くくり。なんちゅう暗いオープニング。しかし落語でおなじみな熊さん八っつぁんたちはそれ自体に感情移入を見せず、「寄り合い酒」のように大家をだまくらかして通夜に興ずる。
仕官がかなわずにいる浪人(河原崎長十郎……四代目)は、妻をなだめながらプライドを捨てて亡父の友人に仕官を頼むが、まるで相手にされない。
享楽的な長屋の住人のひとりであるかに見えた髪結いの新三は、ひょんなことから嫁入り前の質屋の娘を誘拐する。浪人と髪結い新三の動きがひとつになったとき……
オープニングよりももっと暗いエンディングに向けて、ドラマは絶妙な語り口ですすむ。いまではおよそ実現できないような江戸情緒。この映画の60年前には、マジでみんなちょんまげを結っていたにしてもこれはすごい。
後の任侠映画もかくやと思われるような意地を見せる新三を演ずるのは中村翫右衛門。これが、粋なのだ。生き続けることを途中で放棄した男のいなせな姿に紙風船がかぶる。うまい。
港座のスクリーンでなければ、およそ観ようとは思わないストーリーだったけど、まさかこんな傑作だったとは。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます