森繁久彌篇はこちら。
森繁久彌にはもうひとつ戦後の芸能界を象徴するようなエピソードがある。
ぼくがルノーという車を買ってのり回していた頃、ロッパとアチャコと吉本興業の社長が乗った。ロッパはちょっとスピードが出ると怖がるんですね。それが酒飲むと急に元気が出て「この車これしかスピード出ないのか」と言い出す。
こっちもシャクだからピューッと走らせたら、スピード違反で三宅坂のところでピーピッとやられた。そしたら吉本の社長が
「アチャコ、お前の番や」
「へい」
と言ってドアを開けるなり、
(声色)「ハイ、アチャコでござります」
って言うんですよ(笑)。警官が「スピードが……」
「いやあ、言うたらコワイわあ。もう何もかもメチャメチャでござりまする」(笑)。
わたしもびっくりしましたけどね。警官が三宅坂は追い越し禁止だとか言おうと思っても何も言わせない、全部アチャコでやっちゃって、警官があきれかえったところで、よしゃいいのに
「アチャコで足りませんのなら、まだロッパもおります」(笑)。
……うわあ、とわたしの世代だと爆笑なのだが、お若い読者はご存知ない名前もあるだろう。(花菱)アチャコというのは、かつて横山エンタツとコンビを組んで一世を風靡した漫才師。というか、しゃべくり漫才という現在につながる芸をつくったのはこの人なんです。
ロッパとは古川緑波のこと。榎本健一と人気を争ったコメディアン。貴族の生まれで超インテリ。しかも美食家で、晩年は糖尿に苦しんで悲惨ではあったけれども、彼の名は著作「古川ロッパ昭和日記」だけでも歴史に残る。若いころに読んで、あまりの面白さにたまげましたもの。わたしの芸談好きはあの書から始まったかも。三谷幸喜の「わが家の歴史」では伊東四朗が演じていたのでご記憶の方も多いだろう。
だからアチャコ、ロッパと吉本の社長が森繁のルノーに乗っている状況は、それだけでも昭和の芸能好きにはたまらないのです。和田さんもこの話を聞いて満足したはずだ。今で言えば……たけしとさんまとタモリがバーニングの周防さんのクルマに乗っているようなものだろうか。例えが不穏当ですか。以下次号。
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