事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ウォッチメイカー」ジェフリー・ディーヴァー著 The Cold Moon

2007-12-26 | ミステリ

Coldmoon 現場に時計を残してゆく殺人鬼ウォッチメイカー。目撃証言から犯人が購入した時計は10個と判明。被害者候補はあと8人いる。尋問の天才キャサリン・ダンスとともに、ライムはウォッチメイカー阻止に奔走する。一方、刑事アメリア・サックスは別の事件を抱えていた。会計士が自殺を擬装して殺された事件にはニューヨーク市警の腐敗警官が噛んでいるようだった。捜査を続けるアメリアの身に危険が迫る。二つの事件はどう交差するのか?ドンデン返しの名手の技が冴えわたる傑作。

「ボーン・コレクター」 (1997)「コフィン・ダンサー」 (1998)「エンプティ・チェア」 (2000)「石の猿」 (2002)「魔術師」 (2003)「12番目のカード」 (2005)につづくリンカーン・ライムシリーズ第7作。「このミステリーがすごい!08年版」で海外篇のベストワンに選ばれている。本格推理指向が強い「このミス」で、ディーヴァーがトップをとるのはむずかしいと思っていたけれど(なにしろ“面白すぎる”から。あの「魔術師」ですら2位だった)、初の1位。めでたい。

 ディーヴァーのやり口はこうだ。プロットを徹底的に練りあげ、犯罪捜査の職業的知識を全篇にちりばめる。登場人物(多くはライムの公私ともにパートナーとなったアメリア)を窮地に追いやり、しかし次の章ではその登場人物がしれっと行動したりしている……つまり読者を幻惑して意図的にひっかけているわけ。何度も同じ手を使われると普通はしらけるものだが、読者の方も心得たもので、今度はどんな手で来るかとそのテクニック自体を喜べるようになる。こうなると作家も楽しいだろう(笑)。

 今回もあいかわらずやってます。文藝春秋は惹句で「史上最強の敵」と犯人のウォッチメイカーを持ちあげるが、こいつはどうも看板に偽りありでヘタレ野郎だ。殺人はライムとアメリアに妨害されて失敗続きだし、なにしろ途中で逮捕されてしまうのだ。ところが、これまた壮絶なひっかけで……

Deaver6 オカルトではなく、持ち前のセンスと訓練の成果で、容疑者の「しぐさ」や「口調」から嘘を見抜いてしまうキャサリン・ダンスという捜査官が初登場。仕事に関してプロフェッショナルな人間しか認めないライムをも驚嘆させる。筆跡鑑定人パーカー・キンケイドが主人公の「悪魔の涙」 (1999) のように、ライムシリーズのスピンオフとして彼女が主役の作品もディーヴァーは執筆中とか。こりゃ、楽しみだ。

 例によって文句はある。「魔術師」もそうだったが、ウォッチメイカーの犯罪は天才的名探偵がその意図を読み解いてくれることを前提としている。だからライムが余計な口をはさまなかったら、もっと単純に逮捕できたんじゃないのか?(ディーヴァーもそのあたりはかなり気にしているようで、ちゃんと言い訳がしこんであるのが笑える)
そんな小姑みたいな難癖をつけたくなるほど徹夜必至のジェットコースターミステリ。お休みの前夜にどうぞ。

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