PART1はこちら。
陰鬱な職人そのものである彼は、酒田で唯一の鍵屋と言っても過言ではないので、誰もいわないけど有名人だ。
映画でおなじみの聴診器みたいなのを耳にあて、仕事にとりかかること15分。
「……開きました」
「そ、そうですかっ!」
すげー。
わたしはこういうプロに出会うと話を聞きたくて仕方なくなる。ハローワークシリーズは失礼な好奇心でなりたっています。いつか痛い思いをするな。このネコ事務職員は。
「備品シールだと昭和45年ってなってるんですけどね」
「いや、それはここに来たのは昭和でしょうけど、金庫自体がつくられたのは明治の後期か……大正でしょうね」
「はー」
「砂がこぼれてないのは立派だと思います」
「砂?」
「耐熱や重さの確保のために、金庫には砂が大量に入っているんです」
「なるほどー。わたしもダイヤルが数字じゃなくてイロハなんでびっくりしたんですけど」
「ダイヤル錠のシステム自体はさほど進歩はしてないんですよ。」
「へーえ。学校ってのはめったにないでしょうけど、普通の家庭とかでも『鍵あけてくれ』ってリクエストは多いわけでしょう?」
「そうですね。たまに、出かけます」
「酒田には○○さんしかいないわけですから(笑)、どうかいつまでもお元気で」
「わたしは息子がいないもんですからねぇ。でも、後継者がおりますので」
若者に鍵職人志望者が多いとは聞いていたので、そんなことも影響しているのだろうか。
「あと……二年ぐらいかな。」
プロは静かに語った。ちょっと、うれしそうだった。
銀行篇「スタンディング」につづく。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます