「ジョーカー・ゲーム」「ダブル・ジョーカー」「パラダイス・ロスト」と続いた柳広司の原作の基本線はこうだ。
・日本の軍部の封建性と、D機関の「殺すな・死ぬな」というポリシーの対比、というかD機関の優位の強調。
・スパイたちがほとんど無個性に描かれ、D機関を創設した結城中佐の異様さを際立たせる。
・スパイは万能ではなく、失敗もするがそれも結城の計算のうちにあるという展開。
……完全無欠な結城という神がいるかぎり、D機関は無敵の存在として屹立するというわけ。この魅力的な原作を映画化するにあたって、亀梨和也を主役のスパイに、そして結城になんと(年齢的には合わないが)伊勢谷友介を配したキャスティングは悪くない。
それ以上に、監督になんとなんと「SRサイタマノラッパー」の入江悠を起用するとはっ!この冒険は絶好調の東宝と日テレでしかありえないかも。
その入江は、メジャーで王道の大娯楽映画を撮ってやると目論んだはず。スパイ映画で王道といえばボンドじゃろ、ということでこの映画は臆面もなく007を踏襲している。結城はMだし(あ、この言い方は誤解されそう)、Qに相当する秘密兵器係もちゃんといる。そしてボンドガールには深田恭子。うん、悪くない。
ところが、どうもいまひとつ弾まない。亀梨がスパイとして優秀な素質を持っていることが明らかになる訓練時代はまだいい。しかしハニートラップであることが歴然としているのに深キョンにこだわるあたりから調子が落ちてくる。結城が仕掛ける陸軍上層部へのトラップもひねりが足りないし。
でも、スパイ映画好きなわたしとしてはぜひともシリーズ化してほしいと思っている。たとえ007に峰不二子が出てくるような展開だとしても、魔窟のような国際都市が“海に面した埼玉”にしか見えないとしても、ここは入江悠に再登板してほしいなあ。
なにせ、ジョーカーシリーズもサイタマノラッパーも、回を追うごとによくなっているわけだしね。ここで入江のメジャー路線が途切れてしまうのはいかにも惜しい。ぜひとも“生かして”くださいよ。
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