事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「戦場のコックたち」 深緑野分著 東京創元社

2016-05-16 | ミステリ

前作「オーブランの少女」(東京創元社)を読んだときに、なんとまあ不思議なことを考える作家がいるものだと思った。美しい庭園における、老婦人たちの殺人劇。その背景には、彼女たちが少女だった時代のある出来事が影響していた。当時、その“施設”では障害をもつ少女たちが、お互いを花の名で呼び合うことで生活している……

ある特定の時代の、ある特定の事件を思い起こせば「なるほどなあ」と納得できるオチ。しかしそこに持っていくまでの描写がとにかくうまい。

同じことが、この「戦場のコックたち」にも言える。というか、数段スケールアップしています。

19歳のキッド(無垢なる精神を象徴させたのだろう)と呼ばれる雑貨屋の息子が第二次世界大戦に従軍、ヨーロッパ戦線に配属される。兵隊たちにはそれなりのヒエラルキーがあって、やはりいちばん威張っているのは最前線で殺し合う連中。彼らは、兵站や調理を担う後方部隊を軽んじている(衛生兵は微妙)。しかしキッドは、料理自慢の祖母や、冷静な判断で調理と配給を行う先輩エドに影響を受けて戦場のコックとなる。

ノルマンディー上陸作戦(「史上最大の作戦」)、マーケット・ガーデン作戦(「遠すぎた橋」)など、戦争映画でおなじみの場面に遭遇しながら……あ、これっておぼえがあるぞ。そうだスピルバーグが製作した「バンド・オブ・ブラザース」じゃん!深緑は巻末でこのTVシリーズを参考にしたと宣言しているので、これを見てから読むと世界観ばっちりかも。

深緑の勝利は、徹底して細かいディテールを積み重ねた戦闘描写のなかに、なんと日常の謎ともいうべきミステリをしこんだこと。異様なシチュエーションにおける日常のミステリ。これはもう、描写がうまくないと成立しない。

なぜパラシュートの帆布をある兵士はひたすら集めるのか、一瞬で600箱の食料を消し去る手段とは……

ちょっとネタばれだけど、名探偵エドを途中で退場させ、結末で感動にもっていく手管も憎いくらいだ。しかもコックらしい解決まで提示して見せるんだよ。おまけに出てくる料理が(戦場だからありえないはずなのに)おいしそうなんだよなあ。深緑野分(英訳すればディープ・グリーン・タイフーンですか)おそるべし。買ってね。わたしは勤務校の図書館から借りたのでえらいことは言えません(笑)。

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