上巻はこちら。
この作品は9年間「小説新潮」に連載された。上下巻合計1100ページ超。読み応えありすぎ。一週間ぶっ続けで読んでようやくラストまで。
この連載の過程で、おそらく飯嶋のなかで秀吉の朝鮮出兵(というか歴然と侵略)への怒りがふくらんでいったのだと思う。バランスが後半くずれることを承知の上で、この愚行の糾弾に走る。
権力者の誇大妄想的な欲望が、結果として三国の民衆に塗炭の苦しみを与えることになったと指摘。もちろんその矛先は朝鮮や明の権力者たち、無能な政治家、軍人たちにも向かっている。
この、二度にわたる出兵はあまり語られることがないが(そりゃそうだろう。朝鮮の民は秀吉を今でも憎んでいるし、結果的に明は滅亡に向かい、豊臣家の天下は崩れ、朝鮮は荒廃するという勝者のいない戦いだから)、清正の虎退治や、やはり大河ドラマ「軍師官兵衛」におけるエピソードぐらいでしか把握していない歴史音痴のことなので、はてしなくお勉強にはなりました。
・長く続いた戦国のために、銃の使用が一般化していた秀吉軍(日本軍とは形容されない)は、陸戦に強く、築城にも籠城にも長けている。
・ところが水軍には李舜臣という猛将がいて、日本の船は翻弄される。
・明軍は、使い物にならないどころかプライドだけは高く、略奪もし放題。
・秀吉は本気で明を征服しようと考えていたようだが、兵は強くても(特に加藤清正の強さは圧倒的)兵站に難があったあたり、日本の宿命なのか。
ラストがいいんですよ。馬を愛し、馬に愛された甚五郎らしい幕切れ。色恋はまったくなし。妻との関係もほとんど描かれない。これはもう、最初からそう決めていたのだろう。ゴリゴリに硬派な小説だけれども、だからこそ泣かせてくれる。今年もベストは飯嶋和一で決定だ。
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