事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「凶悪」(2013 日活)

2014-03-02 | 邦画

55812 実話をもとにした物語。冒頭から人が死にまくる。というか、ピエール瀧演じる須藤という荒くれ者が次々に「屠っていく」という方が正しい。

まもなく彼は警察に捕まり、死刑判決を受ける。この時点で(確か)4名は殺しているので、量刑として日本では死刑が順当。しかし彼はマスコミ(新潮45がモデル……ということはあの強気な編集長のモデルは中瀬ゆかりですね)に手紙を送り、もっと悪いやつがいるから記事にしてくれと迫る。

記者(山田孝之)は認知症の母親をかかえ、その世話を妻にまかせきりにしている。その事実から逃げる意味もあってか、彼は事件にのめりこむ。そして“先生”と呼ばれる人物(リリー・フランキー)にたどりつく……

中盤は須藤と先生の狂気の殺人劇。保険金や土地ころがしのために、老人を次々に始末していく。家族はそれに加担し、福祉の業者は“原料”を調達し、しかし狂気のふたりは日々の生活を淡々と送る。

ピエール瀧とリリー・フランキーの“無邪気さ”が怖い。須藤は暴力衝動と過剰な情愛が身内からあふれているような男だし、先生は「ぼくにもやらせて?」と喜悦の表情で老人を始末する。金を得るために、もっともシンプルな方法が殺人だと思えば、ためらいなく行動してしまう。まさしく鬼畜。

だが映画はそこだけでは終わらない。取材を終えて疲れた記者に妻(池脇千鶴)は語る。

「あなた、楽しかったんでしょ?事件を追ってて。あたしも読んでて楽しかった。怖いもの見たさで。」

彼女は認知症の母親を叩くことに罪悪感を失っている。記者は現実から目をそむけているだけだ。彼らの行動もまた一種の狂気ではないのか。

拘置所で罪人たちと面会する記者。先生は語る。

「おれをいちばん殺したがってるのは誰だと思う?」

彼は記者を指さす。正義感をふりかざし、死刑囚に向かって死ぬべきだと発言する彼を。

ラスト。カメラは面会室に取り残される記者を残して退いていく。その動きは、どちらが罪人の側にいるのかの上申書そのものだ。そして、記者とは、まさしくわれわれ自身のことでもあろう。

人を殺してはいけないという理屈が抜けていれば、人間ってなんでもできる。

殺人現場となった“事務所”の造形がすごい。いろんなところから持って来た部材で出来上がっていて、

「年中無休」

が裏返しになっていたり、他にもいろんな小細工が。美術さんの努力もあるだろうし、実話をもとにした話であるだけに、マジでこんな姿だったのかもしれない。

殺人者たちは、それなりに自己完結している。だから非道な所業を行っていても、例えばリリー・フランキーはつぶらな瞳で殺人を遂行するけれども、最後まで後悔はしていない。ピエール瀧が殺した人間にお線香をあげるのは、自分の感情を制御できないからだ。

人を殺すというのは、いったいどんなことなのか、まずそれを考えさせられた作品。バランスがいいとはお世辞にも言えない映画だが、役者たちのパワー炸裂。腹にこたえる。日本の冷血がここに。その冷血は、わたしたちの体内にある。

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