事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

日本の警察~その40「若様組まいる」 畠中恵著 講談社

2011-05-09 | 日本の警察

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若様組まいる (100周年書き下ろし)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2010-11-05
その39「函館水上警察」はこちら

明治二十三年、ミナこと皆川真次郎は西洋菓子屋を開いた。店には、旧幕臣の「若様組」の面々や、女学校に通うお嬢様・沙羅が甘い菓子と安らぎを求めてやってきた。

その少し前―。徳川の世であれば、「若殿様」と呼ばれていたはずの旧幕臣の子息・長瀬達は、暮らしのために巡査になることを決意。今は芝愛宕の巡査教習所で訓練を受けていた。

ピストル強盗の噂が絶えない物騒な昨今、教習所でも銃に絡む事件が起きた。若様組の他、薩摩出身者、直参で徳川について静岡に行った士族達、商家の子息達、さまざまな生徒に、何やら胡散臭い所長や教員を巻き込んで、犯人捜しが始まる。

「アイスクリン強し」の前日譚。明治の世も二十年。江戸から東京へと移り変わった空気が定着。西南の役も過去になり、日清日露の戦いにはまだ時間がある……しかしそんな時代においても、幕臣だった家の跡取り息子たちは、家人の生活をかかえ、官吏としての出世も望めず、大学で教育をうけるには金が足りず、と負け組の苦労が絶えない。

解決策が巡査になること、はちょっと無理ある展開。日本の警察はその出自から薩長の、特に(川路利良が警察をつくったんだから)薩摩閥が圧倒的に強い上に、なにしろ給金が安い。若様たちが巡査を志向するのはしんどいというもの。

でもそこさえ納得してしまえば、警察学校の歴史をお勉強するにぴったりのミステリ。維新前の与力や岡っ引きとの業務内容の違い、捕縛や治罪法などの学習内容も興味深い。

「アイスクリン~」が、西洋菓子を前面に出して、文字通りシュガーコーティングされたライトミステリだったのにくらべ、こちらは若様たちの苦行がメインなので少しハード。維新後、すぐに薩長に下った人間と、財産を捨てて駿河に転居した意地っ張りたちの反目など、お勉強になります。

警察学校の校長というのが警察のなかで微妙な立場にいるあたり、最初からそうだったのかとも(笑)

犯人の動機にしても、朝敵の名をいまだに押しつけられる士族の悲哀。なるほど。

捕縛する方法が江戸時代ゆずりのものだったりする工夫と、卒業の朝のツンとくる甘酸っぱさがなかなかなのでお勧めの一品。ドラマ化するなら美少年たちをおおぜい集めなければ。中年にはちょっと甘いので読み終えたらちゃんと歯をみがいてよ。

その41「そして、警官は奔る」につづく

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