事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「砂の器」がわからないPART6

2008-10-11 | 映画

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 わたしがこの映画でもっとも感動したのは、本浦親子が巡礼の途上で、ある神社の軒下にひそむシーンだ。彼らふたりが、親犬と子犬がじゃれ合うように、なにか、楽しそうですらある場面。

 この思い出が、父親にとって数十年間「秀夫は元気でいるだろうか」と三木巡査に手紙を書きつづった強い思いの原点だったのだろう。世間からはじき飛ばされた存在であるが故に、激しくお互いを必要としたのだ。

 しかし、息子の方はその過去を、宿命を音楽の中に封じ込め、「父親に一度会え」と求める善意の人間を排除すらしてしまう。このあたりの皮肉は効いている。泣いた泣いた。

 丹波哲郎はその自伝で「絶対に完成しないと思っていた」と話すぐらいこの映画は幻の企画だった。ハンセン病をあつかったことで患者から抗議も受け、「ハンセン氏病は、医学の進歩により特効薬もあり、現在では完全に回復し、社会復帰は続いている。それを拒むものは、まだ根強く残っている非科学的な偏見と差別のみであり、戦前に発病した本浦千代吉のような患者は日本中のどこにもいない」とのテロップを入れることで和解した経緯もある(Wikipediaより)。

 それ以上に、狂気を感じるぐらいの画面の美しさはどうだろう。作者たちは、日本の四季の美しさを徹底して追い求め、そしてその影に偏狭な差別があった残酷さを描いて見せた(撮影は川又昂)。古い映画を観るときに不安になるのは、画面が劣化していることと、現在のドルビーサラウンドなどに慣れた耳には音響がひたすらしょぼく感じられることだが、イマジカが最新のデジタル技術を用いて、もう一方の主役である音楽も美しくブラッシュアップしてくれているのでご心配なく。

 そして最後に、この映画で誰よりもすばらしく、歴史に残る演技を見せた加藤嘉にふれなくては。ハンセン病は指が落ちたり顔貌がゆがんでしまうことから差別を生んだ背景がある。そんなメイクをしながら、ひたすら息子を恋う父親の演技こそ「砂の器」を単なる大作の位置にとどめていない最大の要因だ。加藤嘉を観るだけでも金を払う価値はあった。イオンシネマよ、次は「飢餓海峡」をお願いします。

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32 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
私はこの映画、、原作でもそうだが、島根から故郷... (権造)
2008-12-02 16:13:52
私はこの映画、、原作でもそうだが、島根から故郷岡山に帰った三木
が家族の前でも一切話さなかったズーズー弁を伊勢参りと称して出かけた
先々で突然使いまくるという違和感が今もって納得できません。
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わははははは。確かに。 (hori hiroshi)
2008-12-02 22:57:54
わははははは。確かに。
そうだよなあ、その部分は不自然きわまりない。
TV版の巡査を誰がやったかは知らないけれど
その辺はやっぱり改善されていないんだろうか。
あの橋本忍も気づかなかったのかなあ。
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「砂の器」は自動車だとホンダのNSXのイメージかも…。... (雨止み)
2012-11-14 11:28:36
「砂の器」は自動車だとホンダのNSXのイメージかも…。(「鬼畜」はCRーXデルソル…?ちぇすと123さんのブログで出てました)何回か観ましたがものすごい自然描写の作品ですね。北国の遍路の所で映るつらら、小学校の校庭の体操を見つめる秀夫君悲しすぎますね…。40年前の映画公開時の人々の驚く姿が目に浮かびそうです。
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「砂の器」がNSXで「鬼畜」がCR-Xかあ。 (hori109)
2012-11-14 20:39:26
「砂の器」がNSXで「鬼畜」がCR-Xかあ。
そうなると「球形の荒野」あたりはNコロですか(笑)
にしても松本清張のタイトルのセンスはすごいっすね。
特に「ゼロの焦点」なんて、よく思いつくなあ。
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Nコロて初めて聞きました。horiさんてさすが新人類ど... (雨止み)
2012-11-15 02:45:26
Nコロて初めて聞きました。horiさんてさすが新人類どすね。広末ちゃん主演で映画化された「ゼロの焦点」て観た人に聞くと「まずまずだ」て言ってました(私は未見です)。なんとなくですが「球形の~」てドマーニがイメージなのでは(映画、ドラマ、小説全て未見未読なのですが)。
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ヒロスエの「ゼロの焦点」は悪くないですよ。 (hori109)
2012-11-18 17:03:01
ヒロスエの「ゼロの焦点」は悪くないですよ。
文句たれながらも10回も特集してしまったぐらいですから(笑)
シビックだけどタイプRって感じ。
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昨日見たホンダ発行の小雑誌に出てたのですがNっこ... (雨止み)
2012-11-24 04:05:40
昨日見たホンダ発行の小雑誌に出てたのですがNっころやシビックて辺見マリさんの愛車だったそうです(娘の辺見えみりちゃんは免許取って初めての愛車がCR-Vだったそうです)。「砂の器」て何回か映像化されてますが映画版が一番見ごたえがあると思います。次に映像化されるのなら音楽シーンを原作通りの電子音楽(喜多郎さんの様な)でして欲しいです(オーケストラバージョンは飽きました)(笑)。


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ホンダ車のイメージって、とにかく速い!ですもん。 (hori109)
2012-11-24 21:17:16
ホンダ車のイメージって、とにかく速い!ですもん。
後ろについたら道をゆずります(笑)
にしても喜多郎をイメージして「砂の器」は……
そういえば確かに電子音楽の旗手でしたもんね原作では。
じゃあ坂本龍一か深町純……ありえねー。
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この作品、川又さんの撮影がすごいです。同じ監督... (雨止み)
2012-12-04 19:13:49
この作品、川又さんの撮影がすごいです。同じ監督の「八つ墓村」も古き日本の風景が収められてましたね。川又さん「八つ墓村はパナビジョンカメラの世界です」て言って撮影したて聞きました。無理だと思いますが川又さんかその助手だった人が撮影を手掛けた角川映画とか観てみたいです。
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名物カメラマンが近ごろ減ったような気がしますよね。 (hori109)
2012-12-05 21:21:30
名物カメラマンが近ごろ減ったような気がしますよね。
前田米造さんや姫田真佐久さんのような。
それって機材の進化が影響しているのかもしれないけれど、
むしろ自己主張するカメラが敬遠されているのかと……
あ、木村大作というとてつもない例外を忘れてました(笑)
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