事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「重力ピエロ」 伊坂幸太郎著 新潮社刊

2007-12-31 | ミステリ

Apierrot 半分しか血のつながりがない「私」と、弟の「春」。春は、私の母親がレイプされたときに身ごもった子である。ある日、出生前診断などの遺伝子技術を扱う私の勤め先が、何者かに放火される。町のあちこちに描かれた落書き消しを専門に請け負っている春は、現場近くに、スプレーによるグラフィティアートが残されていることに気づく。連続放火事件と謎の落書き、レイプという憎むべき犯罪を肯定しなければ自分が存在しない、という矛盾を抱えた春の危うさは、やがて交錯し…。

前作「ラッシュライフ」と「オーデュボンの祈り」(絶版)をそろえて一気に読み進めるべきだ。登場人物が相互乗り入れを行っていて、特別出演みたいでこれがなかなか楽しい。特に探偵兼泥棒兼カウンセラーである黒澤の再登場はうれしかった。

 この作家の特徴は、とにかく大量の警句(ワイズ・クラック)を仕込んでいることで、日本の作家には珍しくいい感じ。例えば、癌に倒れた父親を兄弟が見舞うシーン。

「推理小説を買ってこいだとか、地図を買ってこいだとか、父さんが言うからね。歴史の参考書まで買ってきた」
「そんなの、何に使うんだよ」
「小説に嘘が書いていないか、チェックするんだ」父が笑う。癌のせいでもないだろうが、歯が先細っているように見えた。
「小説を読むのは、でたらめを楽しむためじゃないか」

……このあと、父親は作中でもっとも泣かせるセリフ「(兄弟)二人で遊んできたのか?」をつぶやく。兄弟の物語に弱いわたしは、はやウルウルである。

ただ、ミステリとしてはどうだろう。暗号解読はいかにもとってつけたみたいだし(そのことで兄はあることに気づくのだが)、おまけに肝心の動機が……この動機だからこそ感動できる、それはわかるんだが。「氷点」じゃないんだからさ(笑)。

 ミステリとしては不満の残る出来だけれど、家族小説、そして仙台という街の物語としてなら、これは素晴らしく気持ちのいい作品。でたらめを、ぜひ楽しんでほしい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 原作伊坂幸太郎「チルドレン... | トップ | 「アヒルと鴨のコインロッカ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ミステリ」カテゴリの最新記事