深作欣二、笠原和夫につづき、ワイズ出版のディープな芸談シリーズを。今回は丹波哲郎。
この俳優のことを知らない日本人っているだろうか。少なくとも四十代の映画ファンであるわたしにとって彼は“とにかく、どんな映画にも出ている”ほどの印象。東宝の大作はもちろん、新東宝、大映、東映のやくざ映画、日活、松竹……なんでもあり。
加えてTBSの長寿番組「キイハンター」「Gメン75」でお茶の間に浸透している。そして霊界の宣伝マンというわけのわからない存在でもある。
代表作は、ミスキャストだった気もするが「砂の器」の刑事役と、ショーン・コネリーと共演した「007は二度死ぬ」、あるいは深作欣二の「軍旗はためく下に」あたりが新聞の死亡欄に載るのかな。しばらく死にそうにもないが(2006年9月病没)。
ただ、どんな作品を選んだとしても違和感はある。この人はあくまで“丹波哲郎”としてスクリーンの中にいたのであり、演じないことが丹波の演技術でもあったわけだから。
『大俳優 丹波哲郎』(ワイズ出版)は、アダルトビデオ監督であると同時に強烈な映画狂でもあるダーティ工藤が、圧倒的なフィルモグラフィを誇る丹波に、その来し方を聞き書きしたもの。いやはやこれが面白いのなんの。
とにかくこの人はタモリが言うように自然人で、好きなように生き、好きなように演じてきたらたまたま大俳優になっていたという認識。だから発言に遠慮がない。芸談の醍醐味ここに爆発。いくつかご紹介しよう。いやーこれがすごいんだ。
まずは生い立ちから。
丹波:俺のお祖父さんの丹波敬三というのは東大の名誉教授で、大久保一帯をポンと買ったんだ。そこに建てた学校が、今の東京薬科大学なわけ。
-じゃあ創立者ですか。
丹波:創立者。梅毒の薬“タンワルサン(丹波サルバルサン)”を開発した。だから世界を股にかけて儲けた上に薬事法まで作って、勲章(正三位勲一等瑞宝章)をもらい、男爵にまでなったわけよ。祖父の死後は祖母があらゆる財力と権力を引き継いでたわけ。で、息子、すなわち親父たちの兄弟は生涯祖母から金を貰って、誰一人働かない。だから子供の頃から何ていうかな、金というものについて、良いことなのか悪いことなのか分からないけど俺にとっては良いことのような気がするんだけど(金には)困ったことない。持つ習慣もない。
-金銭感覚がゼロですか。
丹波:どこかおかしい。どこかじゃないね。全くおかしい。
【初体験篇につづく】
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