ディック・チェイニーのお話。だからタイトルは「Vice President」(副大統領)だけでなくvice(悪徳)の意味もひっかけてある。
彼のとった行動が、いかに悪徳に満ちていたかが激しく描かれる。演じたクリスチャン・ベールが例によって体型まで変えるそっくりさんぶり。だけでなく、なぜチェイニーはこのような人間になったのか、観客を納得させるのに成功している。
話は1968年に始まる。酔っ払ったチェイニーは飲酒運転で捕まってしまう。コネでイェール大に入学した彼は、しかし成績不良のために退学させられ、電気工として暮らしていた(イェールくん、と揶揄されるあたり、いかにも)。そんな彼を罵倒し、励ましたのが妻のリン(エイミー・アダムスが相変わらずうまい)。彼女自身が有能だったのに、女性であることで夫に夢を託す。
つまり、彼の権力欲、上昇志向は、妻の期待に応えることと、自分は決して優秀な人間ではないというコンプレックスが結合したものなのだろう。アル中だった子ブッシュとそのあたりはよく似ている。みなが悲嘆にくれていた9.11のときに、チェイニーだけはチャンスだと感じていたという読みはおそらく当たっている。
ラムズフェルドにスティーヴ・カレル、クチを菱形にあける間抜けな子ブッシュにサム・ロックウェルという芸達者をそろえた布陣は、サタデーナイト・ライブ出身のアダム・マッケイ監督への信頼があったからか(製作には盟友ウィル・フェレルと、プロデューサーとしても有能なブラッド・ピットの名もあります)。
しかし監督が最も言いたいことは、なんとエンドタイトルが始まってから披露された(見逃しちゃダメですよ)。リベラルと保守派が分断され、そしてそのことよりも、だから一般の国民がまともに政治のことを考えなくなってしまった……これが、現在のアメリカの悲劇だと。
その悲劇を徹底的に喜劇として描いた映画。登場人物はみんな生きているし、さぞや裁判対策に金をかけたでしょう(笑)。そしてこの物語の語り手が実は……な展開には笑った。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます