事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「女王国の城」 有栖川有栖著 東京創元社

2008-07-17 | ミステリ

48801227  本格ミステリの最大の特徴は、その『遊戯性』だ。登場人物が次々に殺され、主人公に危機が迫ったとしても、読者はそんなことにいちいち道徳的・感情的な反応を見せたりはしない。
「お、次はこの手で殺したか」てなもんである。

 大げさな言葉を使えば、行われているのは“殺人ごっこ”“密室ごっこ”“アリバイくずしごっこ”なのであり、そんな傾向を批判する向きもあるだろう。でも、それでけっこうではないか、むしろそうあるべきではないかと考えるのが(特に大学のミステリ研究会を中心とした)本格ファンというもの。

 有栖川有栖はそんな本格ファン(例外なくエラリー・クイーンを尊敬している)の典型。永遠の学生(さすがにもうすぐ卒業するけれど)江神二郎シリーズは有栖川の代表作。最新作「女王国の城」で、ついにミステリランキングのトップをゲットした。このシリーズは密室の設定が泣かせる。

・一作目「月光ゲーム Yの悲劇’88」は火山の噴火(つまり予想外の事態の象徴)によって取り残されたキャンプ場(陸の孤島)における殺人。

・二作目「孤島パズル」はタイトルどおり台風の接近する孤島における連続殺人。自転車がどこにあったかに徹底して江神がこだわるあたりが醍醐味。けっこう好きです。

・三作目「双頭の悪魔」は、大雨によって橋が流され、絶対に行き来できないはずの川の双方でおきる殺人の連鎖。有栖川の代表作。

そして四作目「女王国の城」では、新興宗教が支配する村の“禁断のトンネル”における殺人。なにしろこのトンネルは、宇宙人が降臨する予定なので信者が24時間注視しているというとんでもない設定。いやはや笑わせてくれます。壮大なトリックは森博嗣の某有名作品への返歌だろうか。

 卒業が近いだけに、登場人物たちの遊びの時間は終わりに近づいている。時代設定は90年代なかば。本格ミステリの天敵である携帯電話の普及もまもなくだ。はたして現代のエラリー・クイーンが、次にどんな手で攻めてくるか。楽しみだなあ。

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