冒頭、いきなりファックシーンから始まる。成人指定なのがうなずける過激さ。これは大人のお話なんですよという監督シドニー・ルメットの宣言だろう。
不動産会社の経理を担当するアンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)と妻のジーナ(マリサ・トメイ)は倦怠期を迎えていて、しかしリオに旅行に来たせいか異様に燃え上がる。
「このままリオに住めたら……」
その願いはおよそかなうはずがなかった。アンディは会社の金を使い込んでおり、週明けには査察が入ることになっている。
アンディの弟のハンク(イーサン・ホーク)は、別れた妻子への養育費にもことかくありさまで、愛する娘からも軽んじられている。
「(遠足に行くお金がないと)パパが負け犬(Loser)なのがみんなにばれちゃう」
にっちもさっちもいかなくなった兄弟は、起死回生のために強盗を計画する。それはなんと親が経営する宝石店だった。しかし、弟がびびって仲間を引き入れたことから計画は破綻し……
町を眺めていて、まわりの人々がみんな幸せそうに見えるときがある。くそ、なんでおれだけこんなにしんどい思いをしてるんだと。
でも、よくよく考えてみれば、みんながそれぞれ事情をかかえているし、誰もが他人の幸福をうらやみ、自己憐憫にひたっている。この兄弟にしても、ほんの小さな裂け目から地獄の底へ落ちていくことになるとはだれも想像できないように見える。
不安をかかえながら麻薬に走る兄。兄嫁との不倫に、かろうじて安息を見出す弟。家事にもセックスにも無気力な妻。日常から一歩先に、地続きで待っている地獄。
まるでギリシャ悲劇のような展開を、時制を前後させながらシドニー・ルメットは絶妙に描く。これが84才のじいさんが撮った映画かと思うとため息が出る。
役者はみんなすばらしい。特に、Loserなのに誰からも(元妻から以外は)愛される、見た目のいい弟へのコンプレックスをむき出しにする兄……こんな役はフィリップ・シーモア・ホフマンにしか絶対にやれません。傑作。
題名が意味するのは、運命の銃弾が発射された時刻。
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