ベトナム戦争を描いた映画(どう見ても「地獄の黙示録」)の撮影隊が、ほんまもんの無法地帯に放り込まれる。しかし俳優たちはそれも撮影だと勘違いしていて……こんな仕掛けで主演がベン・スティラー。なんか、読めるよな。アメリカじゃ大ヒットするだろう、と思ったらどうも感じが違う。
メソッド(役柄のためならどんなことでもやる、と一般に誤解されている演技術。体重を増やしたり減らしたりするロバート・デ・ニーロが有名)俳優、とわざわざ紹介されるロバート・ダウニー・Jr.が、役柄のために黒人の皮膚を移植するというあぶない設定。しかもその黒人っぷりが例によってうまいんだ(笑)。
そんなダウニー・Jr.が、劇中劇「トロピック・サンダー」の前に出演しているのが(予告編がオープニングに挿入される!)「悪魔の小路」という中世もの。若き僧とゲイっぽいやり取りをするんだけど演ずるのがなんとトビー・マクガイア。アイアンマンとスパイダーマンがそういうことしてちゃだめでしょ。
みずからの戦場体験を本にして、映画化作品にスーパーバイザーで参加している役でニック・ノルティ。ベトナム戦争と麻薬がらみとくれば彼の「ドッグ・ソルジャー」が思い出されます。
どうやったらアカデミー賞をとれるかのレクチャーもあぶない。
「いいか、知的障害者の役をやるのはいい。しかし完璧に演じてはダメだ。ダスティン・ホフマンは数学の天才だったし(レインマン)、トム・ハンクスの卓球(フォレスト・ガンプ)にはニクソンも驚いてたろ?でも「アイ・アム・サム」でショーン・ペンはオスカーをとれなかった」
いいのかこれ。
下ネタ芸人から脱却したいコメディアンにジャック・ブラック。麻薬組織につかまったベン・スティラーを救出するために彼が提案したのは「むかしエロ映画に出てたときにさ、こんな手を使ったんだ」とシリアスに。でもこれがマジで史上最低の作戦なのでみんなスルーするのがおかしい。普通、ここは採用するとこだ。
きわめつけはメソッド演技のやり過ぎで自分を見失ってしまったと告白するダウニー・Jr.に(ここ、見せ所なのに)「不安心理のレベルが低すぎる!」といきなり罵倒されちゃうところ。
つまりこの映画は、観客がこうなるであろうと予測した定石をつぎつぎにひっくり返すことのみに集中した作品なのだ。だからあの人の特別出演はその一環。面白かったー。
「トロピック・サンダー」の場合、たとえばベトナム戦争ものなら
こんな描写がつづくだろうという観客の予想を、
ハリウッドの側からひっくり返している点。
にしても、この特別出演の嵐はなんだかなぁ。
「ナイト・ミュージアム」だかでお母さんをひっぱりだした
ベン・スティラーは、この映画では奥さんをしれっと
出演させている。
おまけにあの“ダンスのじょうずな人”はなにを考えて
出たんだか。うれしいけど。