事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「地上最後の刑事」The Last Policeman  ベン・H・ウィンタース ハヤカワ・ポケット・ミステリ

2014-12-10 | ミステリ

半年後に、小惑星が衝突し、地球の滅亡が予告される。はたしてあなたならどんな行動に出るだろうか。まずは情報を疑い、次に陰謀説に加担するだろうか。宗教に走る?自殺する?「やりたいことリスト」にしたがって享楽的な生活を送る?

この小説の世界の住人たちも、そのような形で終末を待つ。しかし、これまでと変わらない生活を(苦い思いをいだきながら)送る人間もいる。

主人公のヘンリー・パレス刑事もそんなひとりだ。巡査から刑事になりたての彼は、ファストフード店のトイレで首をつっている死体を見て、なにか不自然なものを感じ、捜査を開始する。

同僚たちは揶揄する。いまさらそんなことをしてどうなるんだと。自殺であろうが他殺であろうが6カ月後にはすべてが消え去るというのに……

この、黙示録的世界の描写がリアル。汚れ仕事である警察からは真っ先に退職者続出(だから若いヘンリーも昇格できた)。すべての“チェーン店”は機能を失い(現場となったマクドナルドは海賊店なのである)、石油は貴重品となり、薬物は横行し、衝突地点はどこかという絶望的な賭けがいたるところで行われている(正解はインドネシア)。

しかし地上最後の刑事(原題はThe Last Policeman)ヘンリーは、それでもなお誠実に仕事を遂行する。究極の“卑しい街を行く孤高の騎士”であり、ハードボイルドの主人公として美しい。

陰鬱な社会だからこそ、ワイズクラック(警句)を駆使して、刹那的ではあるにしろユーモアを忘れず、関係者の気持ちによりそうことで次第に事件の真相に近づいていく。

犯人の動機は、この世界だからこそ成立する切実なもので、とても納得できる。そして、事件を解決してもまた日々の絶望にもどっていくヘンリーの姿こそ、地方公務員の理想形だ。被害者が顔になぜケガをしていたかのくだりなど、うなるほどうまい。これは三部作の1作目なんだとか。ああ早く続きが読みたい。

今日発売の「このミステリーがすごい!2015」では第19位。それはないだろやー。

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