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「ジェレミー・レナーだよ。ハートロッカーの」
「ああ、アベンジャーズの」
「くそ。みんなヒーローになってるのか」
この映画の皮肉はそこにとどまらない。代役でやってきた、嫌味なくらいうまいエドワード・ノートンは、何を思ったか「インクレディブル・ハルク」になっちゃってたし、リーガンの娘役のエマ・ストーンはもちろん「アメイジング・スパイダーマン」のグゥエン。
強引にひっぱればノートンの恋人のナオミ・ワッツは「キングコング」のスクリーミングアクトレスだったし、リーガンとできている女優は「オブリビオン」で、ヒロインのオルガ・キュリレンコよりはるかに魅力的だったアンドレア・ライズボローだ。
これらすべての状況こみで、監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは絶妙の喜劇に仕立てている。
リーガンは破産覚悟でレイモンド・カーヴァーの「愛について語るときに我々の語ること」(村上春樹の訳で有名)の舞台化に挑む。しかしトラブル満載。
やって来た代役ノートンは最低の野郎で、性的不能者だが舞台の上でだけ勃起する(舞台人への皮肉)。心のどこかでバードマン時代の栄光を捨てきれないリーガンには、今もバードマン(もうひとりの自分)の姿がはっきりと見え、しかも空を飛ぶことができる(伏線)。
ブロードウェイ公演の生命線は批評。特にニューヨーク・タイムズの批評は絶対。その批評家は映画人への嫌悪を隠さない。
「あなたたちは傲慢で、強欲で、努力もせず訓練もしない。あなたの芝居はわたしがつぶすわ」
彼女に向かってリーガンは……
ラストに至って、タイトルの意味が明らかになる。ちょっと理に落ちすぎかなとも思うけれども、映画にしかできない絢爛豪華なテクニックで描かれた傑作。映画人のプライドも少しは慰撫されただろう。
アカデミー会員の多くは実際に映画をつくっている役者や技術者。この映画がオスカーをゲットしたのも(自虐的なユーモアに荷担したかったこともあろう)うなずける結果。アカデミー賞受賞によってこの作品はみごとに完結した。
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