事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「駆込み女と駆出し男」をふたたび絶讃する

2015-06-06 | 邦画

PART1はこちら

縁切寺、駆け込み寺のお話は、これまで何度も映画化、ドラマ化されてきた。でも多くは寺にたどりつくまでのドラマが中心。女性が虐げられ、しかし離婚できないシステムからの救済の物語。

この映画でももちろんその部分はきっちり描かれている。

たたら場(もののけ姫に出てくる、やはり女性も働く製鉄所)で鉄をつくるじょご(戸田恵梨香)は、ふいご(たたら)を吹く作業のために顔に火ぶくれができており、放蕩三昧で稼業に背を向ける夫(武田真治)は彼女を人三化七(にんさんばけしち)と罵倒する。

大店の主人(堤真一)の妾であるお吟(満島ひかり)は、過去のよくわからない主人に恐れをいだき、周到に準備して寺に駆け込む。

道場主の娘、ゆう(内山理名)は、婚約者を道場破りに殺され、なおかつ強引に妻にさせられてしまい、復讐の機会をねらっている。

……縁切寺で二年すごせば、男は離縁状を書かなければならなくなる決まり。この映画では、女たちが二年のうちに成長していく過程がきちんと描かれるが、捨てられた亭主たちの二年の描き方がスマートなのだ。

ここから、ちょっとネタバレになります。

「負けたよ」と言いながらじょごの亭主は離縁状を差し出す。しかしその手には火ぶくれがあることを一瞬だけ映し出す。つまり、彼は心を入れかえたわけ。落語の「芝浜」ですね。しかしこの映画はあの人情噺をもう一回ひっくり返して見せる。うまい。

お吟は労咳を病み、寺から出る。主人は大泉洋が演じる戯作者志望の信次郎を拉致し、吟が何を求めているかを聞き出す。信次郎は仰天するような理由を語り、主人は涙を流す。しかしはたして信次郎が語ったことが真実であるかはわからない。信次郎が口からでまかせで吉原からの使い(橋本じゅん!)をあしらうエピソードが前に挿入してあるので。ここもうまい。

信次郎とじょごが寺を出るとき、これまた一瞬だけ院代のさびしげな表情がインサートされる。彼女は信次郎に恋していたのか?それとも、優秀な生徒だったじょごとの別れがつらいのか。ここも、観客の判断にまかせられる。

つまりは、たしなみのある大人の映画だったのだ。シーンとシーンのつなぎが絶妙なので、渋い話なのに間(ま)だけで大笑いできます。「ソロモンの偽証」につづき、今年の松竹は充実してるなあ。

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