事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ブリッジ・オブ・スパイ」Bridge of Spies (2015 FOX=ドリームワークス)

2016-01-11 | 洋画

陶然とする。死ぬまでに、あと何本のスピルバーグ作品を見ることができるのか、とまで考える。いっしょに見ていた妻は

「これを一年の最初に見ちゃったら、次に苦労するわね」

まったくです。

スピルバーグの映画は、いつも上手に撮ってあることは確かだけれど、妙にあざとい部分があったのも否定できない。でももうこの作品ぐらいになると、悠揚たる雰囲気が(それはヤヌス・カミンスキーの撮影によるところが大きいはず)横溢し、あっという間に作品を仕上げる手管もあって、イーストウッドとともに名人級といえる。っていうかほんと名人。

大好きなスパイ映画ではあるけれど、007ナポレオン・ソロ、ましてやキングスマンとは対極にある、地味なエスピオナージュもの。ル・カレやグレアム・グリーンの世界に近い。

捕獲したソ連のスパイ(マーク・ライランス)と、撃墜された米軍のパイロット(「セッション」で主人公とはりあったオースティン・ストウェル)の交換のお話。スパイものとして異色なのは、この交換を仲介したのがまったくの民間人、保険業専門の弁護士(トム・ハンクス)だったことだ。

東ベルリンに乗りこんだものの、ヤンキー(じゃないか)どもにコートを奪われ、鼻をぐしゅぐしゅいわせながら交渉する主人公に、ヒーローのオーラはまったくない。しかし、ラストで思い切り感動させてくれる。そうきたかあ。

練りに練られた脚本(書いたのはなんとコーエン兄弟!)、陰影が特徴的なカミンスキーの画調、切れ味鋭いスピルバーグの演出、そして彼でなければ達成できないトム・ハンクスの演技……しかししかし、それ以上にこの映画を傑作たらしめたのは、ソ連のスパイを演じたマーク・ライランスのおかげだろう。

「きみは、不安じゃないのか」

「それ(不安)は役に立つのか?」

感情をまったく見せない彼が、一度だけ激情を爆発させた瞬間……すばらしい。これ以上の映画に、今年ほんとうに会えるのかしら。

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4 コメント

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同じ日に (ぱたた)
2016-01-12 08:57:36
8:35~10:55の「母と暮せば」を観てました。
ロビーがやたら混んでてもしかしたら
そこにご夫婦でいらしていたのかもしれませんね。
「母と暮せば」は原爆の所から涙止まらなくて…。
「ブリッジ…」は1/23に鑑賞予定です!
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きっとすれ違ってる (hori109)
2016-01-12 19:57:08
11時50分の回だから、11時半ぐらいから
あのロビーにいました。
妖怪ウォッチの客がかぶるかぶる(笑)

招待券を忘れて「どわっ」と思ったけれど、モギリの
おじさんから
「あの……50才以上のご夫婦ですと……」
ありがたい話です。

すばらしい映画なのでぜひ見てね。
んなことを言いながら、わたしは山田洋次が苦手
なので「母と暮らせば」はちょっとなんだけどさ(^_^;)
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スパイのスパイス (もののはじめのiina)
2016-01-21 09:56:25
>「きみは、不安じゃないのか」 ― 「それ(不安)は役に立つのか?」
何度か使われる遣り取りでした。スパイの言葉だけに、リアルでした。

ソ連のスパイが好い味をかもしてました。^^


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役に立つ。 (hori109)
2016-01-21 19:09:42
きっと彼はオスカーをとるんでしょうね。
まったく役に立つはずのない芸術家を妻に
していることを考えると、最初からあんな
性格ではなかったはず。
スパイとしての生活がそう彼を変えていった
んでしょう。怖い怖い。
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