事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦著 角川書店刊

2008-09-06 | 本と雑誌

04873744  わたしが連ドラを毎週見ることができない人間であることは、前からお伝えしているとおりだ。決まった曜日の決まった時刻にテレビの前にすわって“前からのつづき”を楽しみにする、という一種の律儀さに欠けているんだと思う。

それでも、そんなわたしが今年唯一見続けたのは「鹿男あをによし」(フジ)。万城目学の原作を玉木宏主演でドラマ化したあれね。「医龍」と「ラスト・フレンズ」にはさまれた、いわば恵まれた枠でありながら視聴率は低迷した。でもわたしは大好き。神経を病んだ東京の人間が奈良の女子高に赴任し、自分にある役目があることを鹿に告げられる……要するに「坊っちゃん」の奈良バージョン。綾瀬はるかと多部未華子が実にいいし、“翻弄される”役をやらせたら玉木宏は一級品なのだと思い知った。加えて音楽は今年のベストだと思う。

 でも原作を読もうとまでは思わなかった。万城目に代表される“へたれ京大卒作家”たちが描く古都の、なんちゅうか癖の強さが肌に合わないと感じたから。同じことが森見登美彦にも言えて、ベストセラーになっていることは知っていても、わたしのジャンルではないと思っていた。

 しかし何かのまちがいで「夜は短し歩けよ乙女」を手にとって……しまったぁ!もっと早くに読んでおけばよかった!と後悔。まさかこんなに面白いとは。

 ストーリーはいたってシンプル。貧乏学生である「先輩」が、京都の街を縦横に「黒髪の乙女」を追いかける……それだけ。「何を語るか」よりも「どう語るか」で芸を見せるわたし好みの作品。古都が舞台であるだけに、人名や地名がいい雰囲気を醸し出しているし、達磨や天狗の登場は京都ならでは。乙女と先輩の独白でつづられる一夜の地獄めぐり……つまりは京都版「キャッチャー・イン・ザ・ライ」であるタイトル作のラストはこんな感じ。ぜひ、味わって。

わたしは暗い先斗町の石畳を歩き始めました。
そもそも自分がなぜこのような夜の旅路に出たのであったか、その時の私にはもはや分かりませんでした。それというのもなかなかにオモシロく、学ぶところの多い夜だったからでありましょう。それとも私は何か学んだ気になっているだけなのかしらん。けれどもそんなことは、もうどうでもよいのです。ひよこ豆のように小さき私は、とにかく前を向いて、美しく調和のある人生を目指して、歩いてゆくのであります。
冷たく澄んだ空を威張って見上げて、李白さんがお酒を酌み交わしながら言った言葉を思い出しました。愉快な気分になり、我が身を守るおまじないのようにその言葉を唱えてみたくなりました。
かくして私は呟いたのです。
夜は短し、歩けよ乙女。

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