事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「みみずくは黄昏に飛びたつ」 川上未映子・訊く/村上春樹・語る 新潮社

2017-09-28 | 本と雑誌


Haruki Murakami A Long, Long Interview by Mieko Kawakami 

という英題のとおり、村上春樹のファンであることを自認する川上未映子が、その創作の秘密を徹底的に聞きまくったインタビュー。村上ファンにとって興味深い発言が次々に。

・小説にとってなにより重要なのは文体

・あとでいくらでも推敲はできるのだから、まずは最後まで書く

・読者との関係で幸福だったのは、読み終えて「悪いようにはしなかっただろう?」という信用取引が成立したこと

……なるほど、なるほど。川上未映子は村上作品を深く読みこんでいて、確実に作者より理解しているみたい(笑)。というか、村上は自作をほとんど読み返していないあたりにびっくり。わたしは彼の短編集「中国行きのスロウ・ボート」が大好きなんだけど、意外な発言が。

村上 ただ、もう読み返したくないという短編もあって、そういうのはノータッチです。というか、大部分はそうかもしれないけど。

川上 「午後の最後の芝生」がそうだと。

村上 「芝生」はちょっと読み返せないですね。

……うわあ、すばらしい作品なのに。ただ、あれこそが村上春樹の自画像に最も近い作品だったのではないかとも思う。

それから、わたしが最初に読んだ村上作品にもとんでもないエピソードが。

村上 そうだ。「中国行きのスロウ・ボート」でひとつ思い出したけど、短編集「中国行きのスロウ・ボート」に収録されている「ニューヨーク炭鉱の悲劇」ってありますよね。あれは文芸誌ではなく、「ブルータス」に載せたんです。依頼されて。当時の「ブルータス」は短編小説を載せていたんですね。で、書き上げた原稿を担当編集者に渡したら、「村上さん、申し訳ありませんが、これはうちの雑誌には掲載できそうにありません」ってあとで電話がかかってきた。

「どうして?」と尋ねたら、「タイトルがビージーズの曲のタイトルだし、ビージーズはもう時代に合ってないので」ということでした。ビージーズはお洒落じゃないと。変な理屈だけどまあ、わかりました、それでいいですよ、と返事した。「ブルータス」に断られても、他の雑誌にまわせばいいだけだから。そうしたら、しばらくあとで「すみません。あれ、やっぱり掲載させていただきます」という連絡があった。編集長がそうしろと言っているということで。で、結局ちゃんと「ブルータス」に掲載されました。あの短編、あとで翻訳されて「ニューヨーカー」にも載ったんだけど、でもあやうく「ブルータス」に却下されるところだった。「タイトルがお洒落じゃない」という理由で(笑)。

……なんてこったあ(笑)。当時(81年)のブルータスの編集長は……あ、木滑良久さんか。やはり伝説の編集長は慧眼だったんだなあ。もしもそのとき、「ニューヨーク炭鉱の悲劇」がブルータスに載らなければ、わたし、これほど村上春樹のファンになってなかったかも。

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