事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「たかが殺人じゃないか」 辻真先著 東京創元社

2021-02-04 | ミステリ

“昭和24年の推理小説”という副題がついている。

敗戦の傷跡がまだ色濃く残る名古屋。GHQの指令によって男女共学となった高校生たちと職員の混乱。そんな状況下で起こる連続殺人。

御年88才という最高齢でのミステリランキング三冠。辻さんの壮健ぶり、そして戦争への激しい嫌悪が頼もしい。サイボーグ009で憲法第九条をそのままテロップで流した根性が今でも。タイトルはもちろんチャップリンの「殺人狂時代」からいただいているのだろう。

「一人を殺せば殺人者だが、百万人を殺せば英雄だ。」

そしてこのミステリで誰がこの思想を体現していたか……

時代背景から、「青い山脈殺人事件」とでも言えそう。石坂洋次郎描く若者たちが古い因習に苦しめられたように、この作品もまた、戦後民主主義が簡単には根付かなかったことをうかがわせる。そのあたりの描写がすばらしいです。

高校生たちの家族も壮絶に死んでいて、その記憶が噴きだしてしまうことがたびたび。だから人間の死について意識的でいるようで……そうか昭和24年とはそんな年だったのか。

この作品への圧倒的な支持は、日本の安倍晋三、アメリカのトランプという理不尽な存在への異議申し立てに読者たちが賛同したこともあったと思う。評論家たちの支持は確実にそれ。登場する名探偵の静かさは、まさしく大声で喝采をリクエストするあの人たちと対極にある。

わたしは知らなかったけれど、この作品には前日譚があったんですね(「深夜の博覧会」)。昭和12年の探偵物語(←推理小説ではないことに留意)。そして先月文庫化されたとか。読まなくっちゃ。

え、次は昭和36年を舞台にした新作を?長生きしてください辻先生


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