直木賞候補になったこともあって、爆発的に売れ始めたようだ。作者の名前も時代小説作家として気合い入ってます。本名なんだろうか。
秀吉から北条氏の領地をすべて与えられた(そのかわりに駿河、三河などをとりあげられた)家康は、家臣の反対をよそに関東に移ることを受諾する。しかも、居城を小田原ではなく、単なる湿地にすぎなかった江戸に構えることにする……
「真田丸」でも描かれたエピソード。こちらの家康は「予想以上にススキ野原だったわい」と嘆いていた。はたしてそんな何にもない場所に家康は何を求めたのかがテーマ。その目的のために、
・治水……利根川の流れを強引に東に変え、江戸を豊穣な土地に変える
・貨幣鋳造……使い勝手がよくなかった大判ではなく、小判を流通させることで豊臣から経済力を削ぐ
・利水……海水が浸食する土地だったため、江戸は“いい水”を大量に必要とした。水源地の確保は喫緊の課題だった。
・石垣……天下人の城となる江戸城にふさわしい巨石はどこにあるのか。また、それをどう運ぶか
・天守閣建築……その江戸城に天守閣は必要なのか。秀忠は黒塗りを主張するが、なぜか家康は白くなければならぬと強硬に命ずる。その理由とは。
つまりは都市計画と建築をめぐるお話。それぞれが切れ味するどい短編になっている。すべてに有能な職人が登場し、家康の願望を実現するために奔走する。近ごろめずらしいほどにポジティブなお話なのだけれど、江戸城の天守閣が白くなければならないというエピソードが、単にいけいけの小説にはしていない。
今度の直木賞レースは、原田マハのぶっちぎりと予想したけれど、これはひょっとしてひょっとするかも。