事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「双頭のバビロン」 皆川博子著 東京創元社刊

2012-08-09 | ミステリ

51joicbrhyl_sx230_ 双頭の、にはさまざまな意味が付与されている。あるタイプの双生児、ハリウッドと上海という遠く離れた、しかし混沌の二都市……ミステリではあのタイプの双生児はおなじみの設定。エラリー・クイーンにしても、江戸川乱歩にしても。皆川博子はそれを承知でぶつけてきたはずだ。

美貌の双生児は分離され、片方は跡取りとして、もう一方は異物として遇される。容貌は驚くほど似ている。

跡取りの方はしかし、ある事件(すでにラストへの伏線になっている)からハリウッドに渡り、映画監督となる。モデルは後書きで明かされているようにシュトロハイム。貴族の血にどうしてもあらがえないあたりは「大いなる幻影」を想起させ、映画ファンとしてうれしい。

もう一方は病院という閉じた世界で子ども時代をすごし、友人(ものすごく重要な存在)とともに戦場に向かう。跡取りであるかのように演じて。

貴族の高潔な、ヨーロッパ的精神の片側に、過剰なほど汚物、糞尿の描写がおかれる対比は計算ずくなのだろう。お互いが感応し合う双生児の物語がむやみに面白いため、しかしミステリにする必要があるのか……と思った瞬間にみごとな背負い投げ。そうきたかあ。

年末のベストはこれで決まりだろう。さて、志水辰夫とどちらをわたしは選ぼうか。

双頭のバビロン 双頭のバビロン
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2012-04-21

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