事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「乱れ雲」 (1967年 東宝) 成瀬巳喜男監督作品

2011-04-19 | 邦画

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YouTube: 映画「乱れ雲」予告編(1967)

交通事故で夫を亡くした妻と、その加害者の恋愛……ザ・メロドラマな設定でありながら、この映画においてはそのふたり(司葉子加山雄三)が簡単に結ばれないようにするテクニックがおみごと。

かたわらに加東大介森光子という俗なふたりを置いて主人公たちの悲恋を漂白し、夫を通産省の役人、加害者を商社マンにすることで関係を複雑化する。

それ以上に、夫を亡くした女性が昭和四十年代(オフィスにはすんげーでかい和文タイプがあります)に独りで生きていくしんどさを前面に置き、加山雄三から経済的援助を受けることに納得できないでいるヒロイン……うまいなあ。

司葉子の夫は土屋嘉男。加害者である加山雄三とともに、あの時代においては(今もそうだろうけれども)「使えない」となった瞬間から組織のなかで切り捨てられていくあたりの非情さがちゃんと描かれているので、加山雄三の自棄が絵空事に見えない。遺体の前で通産省のお偉いさんが「酒に弱い男とは聞いていたが」と吐き捨てるシーンはその象徴。

「バッハッハーイ」「ケーロヨーン」なんて流行語をちりばめることで、このドラマはむしろ悲劇性を増す。不器用な役者である司葉子と加山雄三で、ここまでのドラマが構築されるとは。おそらく東宝では成瀬巳喜男しか達成できない業だろう。

この映画において司と加山は一度しか寝ていない。でもそんなことが信じられないほど濃密な関係。こりゃ、まいりました。成瀬巳喜男の遺作にして傑作。ぜひ。

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