その5.
次の日、わたしたちは家に戻るため、列車に乗らなければならなかったのだが、駅まで行く途中、わたしは町にある一軒の食料品店の前で、タバコを買おうと立ち止まった。お金を払うと、店主が話しかけてきた。
「家は見つからなかったんでしょうな」
「ええ」わたしはびっくりしたのだが、のちのち、その店主がわたしたちの家の問題ばかりか、子供たちの歳や名前のことも、前の晩に肉を食べたことも、おまけに夫の収入までお見通しであることを知ることになる。
「フィールディングのところに目をつけなかったのは、うまくなかったですな」
「そんなところ、ちっとも教えてもらえませんでした」
「あんたがたに電話しようかと思ったんですよ」と店主は言った。「でも、メイ・ブラックが言うには、あんたがたが探しているのは売り家だけだ、って言うもんでね。売りに出してるわけじゃないんです。フィールディングの家は」
「どんな家なんですか?」
店主はなんとなく手を振ってみせた。「古い家です」と言った。「長いこと、ある一家の持ち家だった」店主は、小さな男の子が差し出した5セント玉を受け取ると、棒付きアイスの包み紙をはがすのを手伝ってやってから言った。「サム・フィールディングに電話してみちゃどうです? やつならきっと喜んで案内してくれると思いますよ」
この町では、電車は一日に一本だけだ。もしフィールディング邸を見るのに時間がかかったら、わたしたちは明日までここを出られなくなる。わたしはためらった。それを見て店主は言った。「見るだけだったら、別に損はしないと思いますがね」
わたしは店の外へ出て、夫が友人夫妻と一緒に待っている車の窓に首を突っ込んだ。
「フィールディング邸っていう家のこと、聞いたことがある?」
「フィールディング邸ですって?」友人夫妻の妻の方がそう言うと、夫の方が「なんでまたあんな家のことなんか言い出すんだ?」
「その家がどうかしたの?」とわたしはたずねた。
「うーん」と妻の方が言った。「千年くらい前に建った家よ」
「百万年は経ってるさ」と夫の方。そうして、まったくどうしようもない、という仕草をしてみせた。「家の真正面にばかでかい柱が何本もそびえてるんだぜ?」
「列柱のうしろに家屋があるのか?」と夫が聞いた。「もしほんとにそうなら、それに、配管が通っていて暖房設備があってベッドルームがあって、うちに貸してくれるって言うんなら、そこに決めたよ」
フィールディング邸は町から一キロ半ほど離れた、たいそう古い家だった。その界隈ではどこよりも古く、町全体でも三番目に古いという。実のところ、わたしたちはそこの家の前を何度も通っていたのだ。ミセス・ブラックやミスター・ミラーやミスター・ファーバーに案内されて他の家を見に行く途中、何度も通っていたことがわかったときには、軽くショックを受けた。
この家は――引っ越してまだ日も浅いころに、町の歴史をひもといて、このことを知ったのだ。当時はわたしもこの家になんとかなじもうとして、無駄な努力をしていたのである。――1820年代に、オーグルビーという医師によって建てられていた。オーグルビー医師は、大農園の真ん中にある荘園屋敷のような家を建てようとしたのだ。当時、地方では古代古典様式の再ブームがおこっていて、ミスター・オーグルビーもおそらくはギリシャ神殿を模したのだろう。正面にまず四本の列柱を配し、両翼を張り出させたところで、生まれついての「ニュー・イングランド的倹約精神」が頭をもたげ、圧倒的な全面のうしろに、一部屋ぶんの奥行きしかない家を建てたのである。
(この項つづく)
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