hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

香山リカ『新型出生前診断と「命の選択」』を読む

2013年08月26日 | 読書2

香山リカ著『新型出生前診断と「命の選択」』(祥伝社新書324、2013年7月発行)を読んだ。

裏表紙にはこうある。
妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新型出生前診断」が、二〇一三年四月から日本でも始まった。また、遺伝子を調べることによって、将来発症しやすい病気や確率も判明するようになっている。このような医療技術の進歩は基本的には望ましい。だが、最新技術が命に関わる領域に踏み込んだことで、患者と家族は大きな選択を迫られるようになった。その結果、自らの判断が正しかったのか悩む人が増えている。それに対して私たちはどう考えればいいのだろうか。医学の進歩に、心のケアや倫理は取り残されていないだろうか。現状と課題を、精神科医の立場から考える。
検査は進歩し、気軽なものになり、選択肢は増えつつあるのに、それがもたらす結果はあまりにも重い。


妊娠し、幸せのさなかの定期検診で、「ちょっと気になることがあるので、検査しますか」と聞かれ、血液検査の結果、「大変な障害の可能性があることが判明しました」「妊娠を継続するか、中絶するか、なるべく早めに決めてください」と言われる。中絶は妊娠22週までと決められている。

「重い障害を背負っても生まれてきてほしい、というのは命の尊重というより親のエゴ」と考え「いつ胎内で死亡するかを気にし、出産後の重い障害への対応を考えながら出産まで待つのは耐えられない」と中絶した。しかし、取り返しのつかない過ちを犯したとの思いは消えなかった。この場合もグリーフ(死別の悲嘆)・ケアが必要なのだ。この女性も、生まれてから障害があるとわかった場合はと聞かれて、「そのときはそのとき。全力で育てようとしたと思う」と語った。

遺伝子による将来の病気の可能性がわかると、保険加入が拒否されたり、就職や結婚などで差別が生じたりするだろう。アンジェリーナの実子のうちの2人は娘である。彼女たちが年頃になったら遺伝子解析を受けさせて、陽性であった場合は?

人の染色体は、性別を決定する1対2本の「性染色体」と、遺伝情報を伝える22対44本の「常染色体」で構成されている。21番目の常染色体がトリソミー(2本が3本になる)になってしまうとダウン症候群になる。出生児1000人に1人の頻度で発生する。
しかし、陽性と判定された35歳の妊婦100人のうち20人の子どもは実際にはダウン症ではないという。

精神医学的には、恐ろしいことの対象がはっきりしている場合を「恐怖」と呼び、それがはっきりしない場合を「不安」と呼ぶ・・・。




私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

遺伝子検査と命の選択について、いろいろな知識は与えてくれる。しかし、当然、正しい判断はこうだと示されるものではない。この問題に関心が深い人には勧められるが、かなりこの問題に特化しているので、一般的にはどうだろうか、ということで三つ星。

「新型出生前診断」が強調されているが、時流にさとい香山さんのこと、アンジェリーナで話題の「がんリスクの遺伝子解析にもとづく臓器の予防的切除」も取り込んでいる。


関係者にはとてもそうか考えられないだろうが、障害もその人の個性ではある。もし人類が、現在の環境に対しピンポイントに最適に遺伝子を配置していたら、環境が変わったときには生存が危なくなる。遺伝子は適当に変異させてばらつかせ、誰かが生き残るような戦略をとるだろうし、実際そうなっているから、これまで生き残ってきたのだ。正しい遺伝子配列はないのだ。障害は現実にハンディで、時にはまったく厳しいハンディではあるが、けして害ではない。



香山リカは、1960年北海道生まれ。東京医科大学卒。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。学生時代から雑誌などに寄稿。その後も、臨床経験を生かして、新聞、雑誌などの各メディアで、社会批評、文化批評、書評など幅広く活躍。本名中塚尚子で、パートナーはプロレスジャーナリストの斎藤文彦らしい。
おとなの男の心理学』『<雅子さま>はあなたと一緒に泣いている』『雅子さまと新型うつ』『女はみんな『うつ』になる』『精神科医ですがわりと人間が苦手です』『親子という病』『弱い自分を好きになる本』『いまどきの常識』『しがみつかない生き方』『だましだまし生きるのも悪くない』『人生の法則』『できることを少しずつ』『若者のホンネ



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする