hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

一穂ミチ『ツミデミック』を読む

2024年08月31日 | 読書2

 

一穂ミチ著『ツミデミック』(2023年11月30日光文社発行)を読んだ。

 

光文社の内容紹介

大学を中退し、夜の街で客引きのバイトをしている優斗。ある日、バイト中に話しかけてきた女は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗った。過去の記憶と目の前の女の話に戸惑う優斗は――「違う羽の鳥」
調理師の職を失った恭一は、家に籠もりがち。ある日、小一の息子・隼が遊びから帰ってくると、聖徳太子の描かれた旧一万円札を持っていた。近隣に住む老人からもらったという。翌日、恭一は得意の澄まし汁を作って老人宅を訪れると――「特別縁故者」
渦中の人間の有様を描き取った、心震える全6話。

 

第171回直木賞受賞作

コロナ禍で壊れた日常の中で、市井の人々が犯した「罪」にまつわる6編の短編集。
題名はパンデミックと罪を掛け合わせた著者の造語。

 

「違う羽の鳥」

夜の雑踏のただ中にいる時、死後の世界ってこういう感じかな、とぼんやり考える。

と始まる。

優斗は大学を中退し、居酒屋のビラ配りのバイトをしているが、なかなか受け取ってもらえない。雑踏の中で、意味のあるまなざしを感じた。目があった若い女は同級生・井上なぎさを名乗った。

「井上は――井上なぎさは死んだんや、線路に飛び込んで。お前の言うてる『踏切ババア』って、井上のお母さんやないか。ネタにしてええこととちゃうぞ」

“Birds of a feather flock together” 同じ羽の鳥は群れる=類は友を呼ぶ

 

「ロマンス☆」

パンデミックの影響で経営難に陥った美容師の夫・雄大に当たり散らされる妻・百合は、ワンオペ育児で疲弊し切っていてギスギスしている。入浴する夫が「出るまで洗い物中断な、シャワーの水流弱くなるとイラつくから」と言われて、シンクの前で拳を握る百合。

道ですれ違ったスポーツタイプの細い自転車に乗ったフードデリバリー・サービスの男。整った顔立ち、現実離れした容貌だった。歯車が狂いだす。

 

「憐光」

15年前、豪雨の中、川に落ちて死んだ唯は、杉田先生の車に親友の登島つばさが乗り込むところに居合わせた。しかし、二人はまったく気づかない。二人は、唯の骨がようやく発見されたので唯の母の住む家に行くのだ。

憐光(りんこう):光をあてると発光し、光を取り去ると直ちに消滅するものを「蛍光」、発光がそのまま持続するものが「燐光」。

 

「特別縁故者」

元板前の恭一は、調理師専門学校を出てからずっと勤めていた割烹から、人員整理され、職探しが難航している。息子の隼(しゅん)が、古い一軒家の偏屈老人から旧札の一万円札を貰ってきた。お礼の澄まし汁を作って、あわよくばを期待して、訪れる。

特別縁故者:肉親でなくとも、身の回りの世話をしていれば財産分与の対象となる可能性のある者。

 

「祝福の歌」

絶対音感を持つ高校の音楽教師・妻の美津子は音痴の達郎の歌を毛嫌いする。高校生の娘・菜花は妊娠していて、絶対産むと意志強固だ。達郎は勤め先から寄り道1時間、歌を歌いながら母の住むマンションへ月1,2回寄る。隣の近藤さんの奥さんの様子が最近あきらかにおかしい。
最近、達郎は女の白い手に首を絞められる夢を見る。自分の子かどうかを疑う菜花の相手に激怒した達郎は、菜花に「腹の子は諦めろ。あいつはだめだ。」と大声を張り上げた。その瞬間、母が「あんたは何を言ってるんだ!」と頬を張った。達郎の母は‥‥。

 

「さざなみドライブ」

アフターコロナの今も癒えぬ傷を抱えたが5名が集まる。アカウント名「キュウリ大嫌い」(売れない小説家)、20代後半の女性「マリーゴールド」、少女「毛糸モス」、中年の「あずき金時」(俳優の遠藤)が、66歳の発起人「動物園の冬」(毛利)の車で人里離れた林道へ向かう。今から死ぬために。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

何か落ち着かない、不思議な設定で、先が読めない危うさに、ついつい焦って一気に読んでしまった。幽霊が登場したり、明らかに精神に異常をきたしている人の話など、いつもなら覚めてしまい、白けて読むのに!

 

人々が隔離され、各人のストレスが極言となるという社会実験が行われたコロナは作家達に千載一遇のチャンスを与えたらしい。今頃になって、コロナ禍で異常をきたした人の小説を読むことが多くなったような気がする。

 

一方で、夫婦の間の日常のささいなすれ違い、いらだちなどが、巧みに捉えられ、苦笑いしながら読むしかない。

 

 

一穂ミチ(いちほ・みち)の略歴と既読本リスト

「好書好日」に、今の社会に対する思い、作品に込めた思いを語る一穂ミチさんのインタビューがある。

 

 

 

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今野敏『夏空』を読む

2024年08月29日 | 読書2

 

今野敏著『夏空 東京湾臨海署安積班』(2024年3月18日角川春樹事務所発行)を読んだ。

 

「角川春樹事務所」の内容紹介

外国人同士がもめているという通報があり現場に駆けつけると、複数の外国人が罵声を上げて揉み合っていた。ナイフで相手を刺して怪我を負わせた一人を確保し、送検するも、彼らの対立はこれでは終わらなかった……。(「略奪」より) 高齢者の運転トラブル、半グレの取り締まり、悪質なクレーマー…… 守るべき正義とは何か。揺るぎない眼差しで安積は事件を解決に導いていく――。 ドラマ化もされた大ロングセラー「安積班」シリーズ熱望の最新刊! おなじみの安積班メンバーに加え、国際犯罪対策課、水上安全課、盗犯係、暴力犯係など、ここでしか味わえない警察官たちのそれぞれの矜持が光る短編集。

 

「東京湾臨海署安積班」シリーズに属する10編の短編集。おなじみのメンバーがそれぞれ独自の力を発揮する。

 

初出:「ランティエ」2022年12月号~2023年9月号

 

 

今野敏の略歴と既読本リスト

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

「東京湾臨海署安積班」シリーズは20冊近く刊行されている。楽しんで書いている著者の筆は走っていて、4冊目の私には主な登場人物のキャラは頭に入っているので、会話もお馴染み感があって、安心して楽しめた。それだけに想定の範囲内ではある。

 

短篇集だから話に深みはなく、ドン電返しはない。そのかわり、国際犯罪対策課など警察の今までに登場しない組織が出て来て、本当にこんなことまで取材できるのと言うような警察内部の組織間の軋轢、力関係などが示され、さすが警察小説の第一人者と感心しきり。

 

 

 

以下、メモ

 

「目線」

隅田川で遺体が発見され、被害者はアパート住人で近隣住民とトラブルが絶えなかった54歳の門倉。安積等は水上安全課の警備艇で現場に向かう。
犯行現場を映したスマホ映像が、金目当てでTV局に持ち込まれ、局は警察に情報提供した。映像から門倉と対立していた60歳の守屋が浮かび、犯行を自供した。

 

「会食」

課長から安積に調べるよう言われた。署長が暴力団幹部と会食したと記者が副署長に耳打ちしたという。

 

「志望」

署長が、刑事として有望な地域課係員・武藤を刑事課に引っ張りたいと。安積は、管理職向きの村雨をどこかの署に係長へ出して、空に武藤をと動いてみる。武藤は事件現場の人込みの中から……。

 

「成敗」

高速道路上のトラブルで被害者が35歳の津山、被疑者は70歳の丸岡で、罪を認めている。丸岡は空手5段だった。

 

‥‥

 

シリーズの主な登場者

榊原課長:東京湾臨海署刑事組対課・課長。安積と相楽の上司。

安積:主役。刑事組対課・強行犯第一係長。通称、安積班を率いる。45歳。上司にもはっきりと言う。

村雨:安積に忠実に仕事し、部下を厳しく指導する。堅苦しいほど基本に忠実。
桜井:村雨に厳しく指導されている。安積班で一番若い。
須田:ぽっちゃり体型で機敏でないが、勘は人一倍鋭い。捜査が行き詰った時には頼りになる。
黒木:須田と組む。常にキビキビと動く。剣道5段。

水野:女性刑事。須田と同期。美人。

相楽:刑事組対課・強行犯第二係長。通称、相楽班を率いる。40歳前。安積をライバル視。

真島:刑事組対課・組対係(組織犯罪対策係)係長

速水:安積と同期。交通課の白バイ野郎で自由人。

 

 

・江戸は水の町だった。吉原も、舟で行くのが表門で、陸のは裏門だった。

 

 

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「吉田はるみを育てる会」による国会議事堂見学

2024年08月27日 | 政治

 

先進国にはるかに引き離され、国民一人当たりGNPでは韓国にも抜かれ、この先に希望が持てない国、日本にした自民党に退陣してもらわなくてはと、まずは立憲民主党の「吉田はるみを育てる会」に寄付した私。

 

お誘いのメールを受けて、8月22日、吉田はるみ事務所による「国会見学ツアー」に参加した。約20名ほどの参加者が集まった。

 

2時間以上のツアーには最初から最後まで秘書の方と一緒に吉田はるみさんも付きっ切りだった。衆議院議員も楽な商売ではない。

吉田はるみさんは、1972年元旦、山形県の八百屋の長女として生まれた。
立教大学卒業、英国立バーミンガム大学大学院にて経営学修士号(MBA)取得し、
投資・証券会社の会社員として、東京・シンガポール・ロンドンで働き、
2021年衆議院議員選挙(東京都第8区)で初当選した若手だが、(公式ホームページ

立憲民主党代表選挙(9月7日(土)告示)に出たいのだと、8月26日のニュースで聞いた。

 

 

衆議院議場

 

左側が多数を占める政党の席(現在は自民党)

 

右側が野党席

 

天井もなかなか重厚な作り。

 

衆議院議員運営委員会室(国会見学パンフレットより)

テーブルも椅子も、奥の暖炉も重厚で威厳充分。

ずらり並んだ背広のおじさんたち。女性の姿が見えません。

 

階段も含め、廊下には赤じゅうたんが敷かれ、エレベータもものものしい。

 

エレベーター中の模様も重々しく。

ちなみに国会議事堂は、鍵などを除きすべてが国産の物で作られているという。

 

正面から見て左側の衆議院の中庭には池があって、

 

国会は黒服のオジサンたちの世界で、華やかなのは池の鯉だけ?

 

 

 

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7月(1)の散歩

2024年08月26日 | 散歩

 

エクスプローラで少々前のフォルダーを見ていたら、アップし忘れていた「7月(1)の散歩」を発見。

一か月遅れて登場。

 

ヒマワリって、中心の部分が黒いのと、茶色のがあると思ったら、

角度を変えて写真を撮ると、黒色が茶色になった。

 

「ぺチュニア」だと思ったが、Google Lenseにお伺いをたてたら、「サフィニア」との御判定。
「サフィニア」はペチュニア属の園芸品種で、サントリーフラワーズの登録商標だという。

そういえば、2004年にサントリーフラワーズが「青いバラ」を作り出したとのニュースがあった。

 

 

ノウゼンカズラ

 

ピンクのサルスベリ(百日紅)

近づいて撮ると、黄色いメシベらしきものが。

 

白いサルスベリ

 

こちらは「シマサルスベリ」との御判定。沖縄で「島百日紅」と言うらしい。

 

ムクゲ

ムクゲとフヨウを比べると、花の大きさは同じくらいだが、ムクゲの葉はギザギザがあって花より明らかに小さい。

 

こちらが「フヨウ」。葉が花より大きい。

 

ブラックベリーの垣根

美味しそうな実がなっている。

実(み)は、黄色から赤く、そして黒くなるようだ。

 

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新川帆立『帆立の詫び状 てんやわんや編』を読む

2024年08月25日 | 読書2

 

新川帆立著『帆立の詫び状 てんやわんや編』(幻冬舎文庫し50-1、2024年2月10日幻冬舎発行)を読んだ。

 

裏表紙の作品紹介

デビュー作『元彼の遺言状』が大ヒットし、依頼が殺到した新人作家はアメリカに逃亡。ディズニーワールドで歓声をあげ、シュラスコに舌鼓を打ち、ナイアガラの滝で日本メーカーのマスカラの強度を再確認。さらに読みたい本も手に入れたいバッグも、沢山あって。締め切りを破っては遊び、遊んでは詫びる日日に編集者も思わず破顔の赤裸々エッセイ。

 

新川帆立のエッセイ集。なんで詫び状かというと、締め切りを破りまくっていながら、エッセイを理由に遊び回っているから。

エッセイの達人向田邦子の『父の詫び状』は、暴君の父親の事情を描いた切ない話だが、帆立さんの詫び状は、才能溢れ、おじさんの鼻の下を延ばさせる可愛げな女の子がアメリカ生活をエンジョイするという楽し気な話だ。

巻頭の8頁はいかにも今時の女の子という帆立さんの写真。

 

第一章は「アメリカ逃亡編」
デビュー作が売れて、メディアや文芸業界との距離の取り方に迷い、混乱の末、旦那さんについてアメリカへ行くことにした。
アメリカでの、エスニックフード、ありのままの自分を受け入れ、愛す「ボディポジティブ」のムーブ、バッグマニアとしてのうんちくなど。

山手線の内側が2つ入る大きさのウォルト・ディズニー・ワールドで楽しむ。

 

第二章は、「あれもこれも好き」
アニメにハマり、バッグ・バーキンを求めてさまよう
(私が、そんなに高いのかと、楽天で検索してみたら、なんと約500万円! 傍に送料無料とあるのが笑えた)

 

第三章は「やっぱり小説が好き」

新人作家が直面する色んな「初めてのこと」に一喜一憂、てんやわんや。

 

 

本書は2021年7月~10月、幻冬舎plusで連載したものに、加筆・修正し、副題を付けたもの。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

帆立さんファンは五つ星、すべてに恵まれた女性に反感がある人は三つ星。

 

「売れるときに、売れるものを書く」と迫られ、必死に応えていた帆立さん。コロナ禍で出会うことがなかった読者から、感謝の言葉をいただいて、感激した。果たしてこんなこと続けていっていいのだろうかと思い悩んでいたが、私の小説は誰かの役に立っている。文学賞なんて別にいらないなと思った。

 

 

新川帆立(しんかわ・ほたて)の略歴と既読本

 

 

 

以下、私のメモ

 

第一章は「アメリカ逃亡編」
デビュー作が売れたのに混乱の末、旦那さんについてアメリカへ。

エスニックフード万歳:あれもこれもと大盛を食べて1年、4キロ太った。

ファッションとボディポジティブ:
服装は全体にカジュアルで軽装、機能的。プラスサイズの人でもショートパンツを穿くし、シニア女性がミニワンピースを着ることもある。自分たちのありのままの姿を受け入れ、愛していこうという「ボディポジティブ」のムーブが10年ほど前から起きている。

バッグ愛好家の見るアメリカ1,2、3:
プラダ、バレンシアガ、ミュウミュウ、ポッテガ・ヴェネタ、グッチ、エルメス、シャネル、ルイ・ヴィトン、ハイブランドのバッグは一通りたしなんだ。アメリカへ来てコーチのバッグにドハマりし、ウンチクが続く。

フロリダでのバケーション:ウォルト・ディズニー・ワールドは山手線の内側が2つ入る大きさ。

 

第二章は、「あれもこれも好き」
アニメにハマりました1,2/ 趣味はなんですか バーキンを求めて

 

第三章は「やっぱり小説が好き」

新人作家が直面する色んな「初めてのこと」に一喜一憂、てんやわんや。

執筆や改稿、校正などは好きで楽しい。しかし、人前へ出なくてはいけない仕事は楽しいのだが、疲れてストレスになる。そして、なにより今年デビューした新人作家に、悪気のないおじさんたちがニコニコして「可愛いって言われたいだけなんだろう?」「あ~東大生って感じですね~」などと言う。

 

ドラマ化脚本を読むと、絶対口出ししたくなる。苦渋の決断として脚本は事前に読まないことにした。しかし、原作利用許諾契約書は大切だと思い、熟読する。

 

幸いなことに、「売れっ子」街道に踏み出した状態だが、作品の内容が浅い、軽い、ウケを狙っている、と語られることもある。普段本を読まない人たちにリーチできたことは良かったが、反面、古くからの文芸マニアやコアファンの皆様には冷ややかに見られている(ような気がする)。将来的な文学賞へのノミネートは遠のいたと感じている。

 

出版各社からは「アラサー女性が主人公のお仕事小説で、できれば映像化できるようなものを」というニュアンスの依頼ばかりがくる。原稿の〆切はきつい。「売れるときに、売れるものを書く」必要がある。果たしてこれでいいのだろうかと思い悩んでいる。

私の小説は誰かの役に立っている。そういう「誰か」のために、これからも書いていけばいい。文学賞なんて別にいらないなと思った。商業作家たちに真摯なあり方に気づかされた。

 

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森絵都『できない相談』

2024年08月23日 | 読書2

 

森絵都著『できない相談』(ちくま文庫も29-1、2023年3月10日筑摩書房発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

夫の部屋の掃除はしない。マッサージ店で指名をしない。“ワンちゃん”呼びはしたくない。バリウム検査で作法を貫く。結婚指輪はどこかに消えた。くだらないような気もするし、ちいさい事とわかってもいる。「だけどコレだけは譲れない」、そんな何かが誰にもきっと一つはあるはず――。こだわりを許して生きていくのは、なかなか案外悪くなさそう。38篇の物語に文庫版限定の2篇を追加収録!

 

212頁で40篇、1篇平均約5頁の掌篇小説集。というより私には、星新一のひねりの効いたショートショートを思い出させる。

 

「webちくま」で2016年から3年にわたって、レジスタンスをテーマに、原稿用紙5枚の短篇を書き続けた。一冊の本『できない相談 piece of resistance』にまとめ、さらに2篇を追加して単行本化したものだ。

 

創作の背景が語られるインタビューが面白い。

最初の「2LDKの攻防」は、一度文句を言われて以降、頑なに夫の書斎を掃除しない妻と、妻の下着を畳まない夫の話で、ほぼ森家の話。

38番目の「電球を替えるのはあなた」は、トイレの電球が切れているのに、お互いに相手がやるべきと思い、決して取り換えようとしない夫婦の話で、森家の話に近い。

最期の「噂の真相」は、森さんの母親が血相を変えて〝あなた、離婚したの?〟って電話してきた話だ。

 

 

タイトルの「できない相談 piece of resistance」とは、「人が何かにこだわっていじましく守っている姿って、微笑ましくもある」、「本人は真剣なのにどこか滑稽味がにじみ出る」ということ。

 

東京ドームの片隅で:コンサート会場で終了前に出て混雑を避ける彼女を許せなくて

時が流してくれないもの:犬の里親希望者が「ワンちゃん」と言うのが許せなくて

スモールトーク:絶え間なく話しかける美容師が許せないが

……

 

 

本書は2019年に筑摩書房より単行本として刊行されたものに「島田祐一」「噂の真相」を書き下ろし、文庫化したもの。

 

 

森絵都の略歴と既読本リスト

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

数ページの掌篇小説は、ポイントはほぼ1か所。40篇のうち、私が「そうなんだよ」と思ったり、「なるほど」と感心したのは20篇ほどで、「かもね」と思ったのが10篇、通り抜けたのが10篇と言った感じ。かなりな高確率だと思う。

本全体の筋はないので、通勤途中など切れ切れでも楽しめるので、四つ星にすべきだったかも。

 

一方で、「できない相談」というテーマで統一して40篇を書き上げたのは、さすが上手の森さんだ。

 

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久しぶりに池袋へ

2024年08月21日 | 食べ物

 

小学生ではたまに、中学生では時々、代々木上原から代々木八幡駅まで歩き、100円バスで渋谷へ出て、ガード下の蛇屋(健康食品店?)や、宮益坂の切手屋を覗いたり、フラフラしていた。高校からは新宿が取って代わった。かっての我がお出かけ処の一位は渋谷で、次に新宿だった。

しかし、品のない所との偏見があった池袋にはめったに足を向けなかった。

 

池袋に、おそらく20年ぶり位久しぶりに出かけた。

丸物百貨店が消えて、西武池袋本店があやしくなって、残った東武百貨店に向かい、腹ごしらえ。池袋駅から東武へは、同じ建物内でさすがに迷わず到達。

 

東武百貨店7階の我家の墓参りでお馴染みの「永坂更科 布屋太兵衛」へ。

写真は「永坂更科」のHPより借用

 

店内はけして広くないが、各席が仕切りで分かれているので、隣を気にすることもない。声高で話す人がいたのは残念だが。麻布の本店は広いのに、テーブルが雑然と並んでいて仕切りがないので、落ち着かない。壁に掛かる絵も昔々の落ち着いた絵で雰囲気は良い。さすが200年以上前の寛政年間創業だ。

 

 

私は「天ざる」

麺が硬めだが、味がしっかりしていて美味しい。天麩羅はあったかくて揚げたてでパリパリ。

 

 

相方は白い麺の「天御前」

1/3ほど回ってきたが(もちろん麺のみ)、さっぱりして食べやすい。

 

 

「から汁」と「あま汁」が添えられていて、永坂更科でお馴染みの江戸の二人が蕎麦を食べる絵が。

あま汁とから汁をそれぞれ味わったあとで、自分好みにブレンドして楽しみ、さすが通だなと自己満足。
長屋で蕎麦通との評判の男が「俺は汁なんて浸けない」と誇っていて、死ぬ間際に「一度で良いから汁をたっぷりつけて蕎麦が食いたかった」と嘆いたという落語の話を思いだした。

 

 

東武百貨店を出てすぐの「東京芸術劇場」へ。Google Mapで確認したときは、すぐで簡単だと思ったのに、東武の出口がずれていて、戻って店員さんに聞くしまつ。立派なお爺さんしている。

 

下の「東京芸術劇場」へ入ると、手前のガラス張りの吹き抜けが広々として、贅沢、無駄??

 

中に入り、ホールへは延々とエレベータで登る。写真は長い列に焦って、取り損ね。

帰りに取った写真が以下。

遥かなる高みに登った気分

 

天井の丸窓?にはシャガール風?の絵

 

ホールは、カーテンコールの時のみ撮影可能

念のためスマホ電源を切っていたので、指揮者が退場寸前にスマホが立ち上がって間に合った??

 

 

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城アラキ『妻への十悔』を読む

2024年08月19日 | 読書2

 

城アラキ著『妻への十悔 あなたという時間を失った僕の、最後のラブレター』(2024年5月10日ブックマン社発行)を読んだ。

 

ブックマン社の内容紹介

淳子さん――。
僕があなたを失って14年が経った。
あの日、あなたに言われて約束したよね。
「無理心中なんて嫌だからね。後追い自殺もダメ」。
僕はまだ、生きている。あなたを失った時間を――。

……

『バーテンダー』など数々のヒット作を生み出した漫画原作家の城アラキは、最愛の妻から突然の余命宣告を受ける。
混乱して子供のように泣き出す夫と、どこまでも冷静な妻。
「ふたりだけのことだから、最後までふたりだけで生きたい」
妻の願いにより、残された数か月をほぼふたりきりで過ごす夫婦。
共に過ごした30年間の、更に濃密な3か月間。
愛して、愛して、愛した妻の、最期の言葉――。
「淳子さんの心の本当の奥底にあった孤独感は、 やはり僕には分からなかった」
妻を失って壊れた心は、簡単には戻らない。もう戻ることはないのかもしれない。
それでも、美しくて、強くて、聡明だった淳子さんを残したい。
同じように誰かを失くした、誰かのために。
城アラキが2年以上の歳月をかけ、悩み、迷いながら綴った、妻への愛と後悔のエッセイ。

 

 

第1章より

振り返ると青山アンデルセンの小さな袋を手にした淳子さんは、そのまま僕の前を横切り、左横に座りながら、それはあまりに突然の言葉だった。
「膵臓がんだって。もう一度正確な検査しないとハッキリしないけど、まず間違いないって。レントゲン見たけど、肝臓にも3か所転移があって、結構大きい。ステージⅣのbだから、手術するのも無理。助からないみたい」

「アンデルセンって、青山店だけはお店でパンを焼いてるんだって、だから美味しいのかな。美味しいよね。食べる?」

……

「何があっても無理心中なんで嫌だからね。後追い自殺もダメ」
横顔は穏やかに微笑んでいた。その口調は明るく、いつものようにどこかのんびり、おっとりとしていて他人事のようだ。

 

以下、ガン告知を受けてからの二人の闘病の歩みが語られ(全体の2/3)、そのあいだに、淳子さんが亡くなってから、あるいは二人の出会いからの城さんの思い出話(1/3)が字体の色を変えて挟まれる。

 

 

城アラキ(じょう・あらき)
漫画原作者。立教大学在学中からライター活動を始め、コピーライターを経て漫画原作者に転身。

テレビドラマ化・アニメ化された「バーテンダー」をはじめ酒と酒にまつわる人間関係を、コミックの巻数にして優に100を超えて描き続けている

漫画原作を手掛けた作品に、『ソムリエ』シリーズなど。

単著として『バーテンダーの流儀』『負けない筋トレ』など。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

闘病模様がかなり詳しく書かれていて、この部分は真剣に読む気にもならず、さらりと読んでしまった。

 

がん告知の当初から、あっさりと悟ったかのような言動の淳子さんに驚かされる。本心なのかはわからないのだが。ただただ混乱し、感情が乱高下する城さんを、しょうがない人ねと言う風に温かく見つめる淳子さんに感心する。

同時に、まるでダメな男の代表で、酒ばかり飲んでいる城さんにあきれるが、私が同じ立場だったら、毅然としていられるか自信がない。

 

地方都市・浜松で大切に育てられた典型的お嬢様で、美人だった淳子さんが、放埓な大学生活を送る城さんに惚れて、東京で一緒に暮らし、卒業後、別れて実家に戻り、結婚する。数年で婚家を飛び出して、東京の城さんの元に飛び込んでくる。この辺りの、当時の一つの典型的恋愛模様も簡潔に描かれていたので、面白く読めた。

 

 

目次

プロローグ 人生の地図
第1章 青山、1月。 「無理心中なんて嫌だからね」
第2章 八ヶ岳、2月。「あなたには、絶対に我慢できないくらいの痛み」
第3章 八ヶ岳、3月。「二人で共に有る」
第4章 浜松、3月。 「僕に、自殺の可能性はありますか?」
第5章 最後の部屋、4月。「愛おしくて、ならない」
第6章 「その後」を生きる
エピローグ 妻への十悔

 

 

メモ

予期悲嘆:悲しみを予想する。医療などでは、誰かの死を想った時から始まる、悲しみや別離の先取りを意味する。

 

葬儀の悲しみの違い:親戚は、子供たちも帰るべき日常の生活がある。その上での悲しみだ。しかし、妻を、夫を、子供を亡くした時、帰るべき家庭の日常そのものの形は変わってしまって、もう二度と戻りはしない。

 

下顎呼吸:死の直前に起こる呼吸。呼吸が苦しいのか少し喉をかきむしるように手を伸ばし、首を反らせて口を開け「ハッ、ハッ」と短い呼吸を繰り返す。

 

「大丈夫、死ぬことなんて怖がらなくていい。生きているうちは死は絶対に追いつけないんだから」(アキレスと亀のように)

 

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岸惠子『岸惠子自伝』を読む

2024年08月17日 | 読書2

 

岸惠子著『岸惠子自伝 卵を割らなければ、オムレツは食べられない』(2021年5月1日岩波書店発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

戦争体験、女優デビュー、人気絶頂期の国際結婚、医師・映画監督である夫イヴ・シャンピと過ごした日々、娘デルフィーヌの逞(たくま)しい成長への歓びと哀しみ……。その馥郁(ふくいく)たる人生を、川端康成、市川崑ら文化人・映画人たちとの交流や、中東・アフリカで敢行した苛酷な取材経験なども織り交ぜ、綴る。

円熟の筆が紡ぎ出す芳醇な自伝

 

横浜での少女時代/映画女優/イヴ・シャンピと結婚/離婚し国際ジャーナリストに/孤独を生きるの五部構成。各部の最初は美しい岸さんの写真で、中にも思い出の写真が挿入されている。

 

 

12歳で横浜空襲に遭い、大人の言うことを聴かず横穴防空壕 から飛び出して一人だけ生き残った。「もう大人の言うことは聴かない。十二歳、今日で子供をやめよう」と決めた。

平沼高等学校の舞踏サークルでは草笛光子と一緒だった。

 

松竹の研究生になり、鶴田浩二と共演し、カメラマンから「山猫みたいなすごい女の子が出てきた」と言われた。やさしかった鶴田浩二から「今のままでいなさい。この世界のあくに染まって、女優臭くなっちゃダメだ」と言われたが、<わたしはそれほど素直で簡単な女の子ではないのよ>と胸の中で呟いた。

 

24歳の時、「君の名は」で一世を 風靡 したスターの座をかなぐり捨て、「雪国」を最後に医者で映画監督のイヴ・シャンピと結婚するためパリに降り立った。当時は円を持ち出すことができず身一つだった。

 

突然電話がかかってきて「ごしょのにょかんちょうでございます」と言った。美智子さんからのお食事会への誘いだった。美智子さまの素晴らしい話しぶりについては、この本をお読みください。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

長が~く映画界で活躍し、ジャーナリストでもある岸惠子の自伝だ、興味深く読める。映画人、川端康成、王、長嶋、力道山など様々な著名人が登場し、危険な紛争地での突撃行動など世界的な話もあり、文筆家としても優れているので、わかりやすく、ユーモアも漂う。

 

山本富士子を現代的にした典型的美人だが、単なるお姫様女優ではない。厳しい芸能界を生き抜き、ジャーナリストとしても活動したのだから、当然気が強く負けず嫌いだ。しかし、その行動を見ると、常に優雅で芯が強く、頭の良い人だと思う。

 

 

岸惠子(きし・けいこ)
1932年横浜生まれ。

1951年女優デビュー。
1957年医師・映画監督であるイヴ・シァンピとの結婚のため渡仏。
1963年娘・デルフィーヌ誕生。
1976年離婚。

1987年NHK衛星放送『ウィークエンド・パリ』のキャスターに就任。
1994年『ベラルーシの林檎』で日本エッセイストクラブ賞受賞

女優として映画・TV作品に出演し、主演女優賞のほか数多くの賞を受賞。作家、国際ジャーナリストとしても活躍を続ける。

 

 

以下、私のメモ

 

市川監督から山本周五郎の(江戸の貧乏長屋の)「かあちゃん」をやって欲しいと言われた。もうじき68歳になる岸さんは、いくらなんでも25歳若返るのは無理だと、旧友の敦子さんに言うと、彼女は「大丈夫! 5人の子供を産んだ江戸の女は、今時の女と違って、老いさらばえていていいのよ、その顔で充分や」と言った。

 

山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」のナレーションを任された。「ひどい声のうえ、このごろ、ひび割れたりもしてきて……」と言うと、監督は「あなたは、昔からそういう声でしたよ」

(私は、原作「たそがれ清兵衛」「祝い人助八」(「竹光始末」)も読んだし、この映画もTVで見たが、素晴らしかった。岸惠子のナレーションもしんみりとして良かったし、最後のちょっとした場面に大女優が登場するのも感激した)

 

 

[映画]
『君の名は』、『亡命記』(東南アジア映画祭最優秀主演女優賞受賞)、『雪国』、『おとうと』、『怪談』、『約束』、『悪魔の手毬唄』、『細雪』、『かあちゃん』(日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞)、『たそがれ清兵衛』ほか多数。

 

[著書]
『巴里の空はあかね雲』(新潮社、日本文芸大賞エッセイ賞受賞)、『砂の界へ』(文藝春秋)、『ベラルーシの林檎』(朝日新聞社、日本エッセイスト・クラブ賞受賞)、『30年の物語』(講談社)、『風が見ていた』(新潮社)、『私の人生 ア・ラ・カルト』(講談社)、『わりなき恋』(幻冬舎)、『愛のかたち』(文藝春秋)、『孤独という道づれ』(幻冬舎)ほか。

 

 

目次

Ⅰ部 横浜育ち
 1 港町横浜/ 2 「細い」というコンプレックス/ 3 疎開の風景/ 4 「今日で子供はやめよう」/ 5 黒い太陽/ 6 泥棒と痴漢/ 7 恩師のひとこと/ 8 「映画」という不思議

第Ⅱ部 映画女優として
 9 女優デビュー/ 10 はじめての主役/ 11 スターという怪物/ 12 大俳優の役者根性/ 13 美空ひばり讃歌/ 14 『君の名は』の時代風景/ 15 「にんじんくらぶ」の設立/ 16 『凱旋門』と語学の特訓/ 17 日仏合作『忘れえぬ慕情』/ 18 『雪国』そして決別

第Ⅲ部 イヴ・シァンピとともに
 19 旅立ち/ 20 パパラッチの襲来/ 21 イヴ・シァンピ邸/ 22 ちょっといい話――長嶋茂雄、王貞治、そして岸本加世子/ 23 言葉ノイローゼ/ 24 義父母に魅せられて/ 25 復帰、そしてゾルゲ事件/ 26 市川監督との出会い/ 27 「にんじんくらぶ」の終焉

第Ⅳ部 離婚、そして国際ジャーナリストとして
 28 離婚/ 29 学生街の新居/ 30 サン・ルカス岬の想い出/ 31 ジプシーの「ハンナばあさん」/ 32 『細雪』の風景/ 33 飲まなかったシャンパーニュ/ 34 イラン「天国の墓場」/ 35 ナイル河遡行/ 36 『砂の界へ』と日本の知識人/ 37 NHK・BSのパリキャスター/ 38 イスラエル過激派の襲撃

第Ⅴ部 孤独を生きる
 39 遠い家族/ 40 三度目の別れ/ 41 帰郷/ 42 「わりなき」ことども

 エピローグ

 終わりに/岩波現代文庫版あとがき/岸惠子略年譜

 

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恥ずかしながらゴッホが好き

2024年08月15日 | 個人的記録

 

絵といえばベタで申し訳ないが印象派の系譜が好きだ。マチスの「ダンス」も、長谷川等伯の「松林図屏風」も凄みを感じる好きな絵だが、すなおに良いなと思えるのは、難解でなく、ひどく通俗的でもなく、それぞれ個性的な印象派の人々の絵だ。

 

印象派に先立つマネ、特に後期のマネは、何気なく置いたかに見えるタッチの絵具跡が人の姿に見えたりする。簡単に見える練達の筆使いで、巧みさにほれぼれしてしまう。ピサロの絵も広い空と爽やかな風景が広がり、部屋に飾った写真もあきがこない。

しかし、誰が一番好きかと聞かれれば、その印象派の影響を強く受けたゴッホと言わざるを得ない。あの絵具をそのままキャンバスに絞り出したようなうねるタッチ、叫んでいるような激しい色使い。
そして、生前一枚しか絵が売れず、貧困と絶望の中で精神を病んで自死した生涯も心を搔き立てる。情熱がほとばしる絵が、激しい生きざまと共に凡庸な私の人生を波立たせてくれる。

 

私が初めてゴッホの本物を見たのは約20前、安田火災海上(現損保ジャパン)が約58億円で購入した「ひまわり」の絵で、ロープで仕切られた区域に厚いガラスケースに納まっていた。直後、ロンドン出張の空き時間にナショナルギャラリーでゴッホの違う「ひまわり」を見た。当時は地下のコンクリートむき出しの壁に、習作らしい何点かと一緒に無造作に並んでいて、富の蓄積の差を実感した。ゴッホの「ひまわり」は7点あり、習作を含めると10点以上あるという。

 

定年後、南仏の印象派の人々の足跡を訪ねるツアーに参加した。「アルルの跳ね橋」や「夜のカフェテラス」(いずれも複製)を見て、ゴッホが収容されたアルル市立病院中庭や、心を病んで入院していたサン・ポール・ド・モーゾール修道院を訪ねた。それらを描いた場所には彼の絵の模写が飾られていた。絵と同じ景色を見ていると、自分がゴッホになった気分になった。

 

アルル市立病院中庭

 

夜のカフェテラス(模造し営業中)

 

アルルの跳ね橋(1960年に移築したので洗濯場はない)

 

サン・ポール・ド・モーゾール修道院のオリーブ畑

 

置かれていたゴッホの絵の模写

 

ついでのゴッホの精神病棟病室の窓からの眺め

 

こんな環境で、ゴッホは1年間で150点以上の絵画を描いた。絵は生涯1点しか売れなかったというのに!

 

 

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森絵都『みかづき』を読む

2024年08月13日 | 読書2

 

森絵都著『みかづき』(集英社文庫も27-4、2018年11月25日集英社発行)

 

裏表紙にはこうある。

昭和36年。放課後の用務員室で子供たちに勉強を教えていた大島吾郎は、ある少女の母・千明に見込まれ、学習塾を開くことに。この決断が、何代にもわたる大島家の波瀾万丈の人生の幕開けとなる。二人は結婚し、娘も誕生。戦後のベビーブームや高度経済成長の時流に乗り、急速に塾は成長していくが……。本屋大賞で2位となり、中央公論文芸賞を受賞した心揺さぶる大河小説、ついに文庫化。

 

集英社 文芸ステーションの特集が詳しい。

文庫本だが600頁を越える大部。本屋大賞2位の力作。

 

戦後すぐから現代まで、塾経営に関わる親子三世代の物語。時代が移り変わって行く中で、学習塾・千葉進塾の変わっていく姿と、吾郎、千明、蘭、一郎と大島家の3代の民間教育への考え方の変遷と対立。

 

 

一軒家を借りて吾郎と千明が始めた塾は、受験競争を煽る受験屋と非難・軽蔑され、隠れて塾に通う時代を経て、大きく成長していく。時を経て、吾郎はあくまで補習、千明は進学と目的が乖離し、時代の要請を得て進学塾へ発展していく。

 

公教育への反発で強固な信念で突っ走る千明、用務員から塾講師となったカリスマ的教育者の吾郎。
千明の連れ子・蕗子(ふきこ)は公立学校の教師になる。2人の間の子供である、我が強く利己的な次女蘭は新形式の塾を創設し、三女菜々美はバンクーバーのグリンピースで活動する。さらに蕗子の子・一郎は長じて、塾へ通えない貧しい子共達の学びの場を作る。
いずれも両親の影響・母への反発の下で、それぞれが自分なりの考えで、教育に関する自分の考えを築いて行動し、大島家はバラバラとなり、拡大していくが……。

 

 

本書は、2016年9月、集英社より刊行。

初出:「小説すばる」2014年5月号~11月号、2015年2月号~9月号、2015年12月号~2016年4月号

 

森絵都の略歴と既読本リスト

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

年寄りには大部過ぎるし、前半は人物が類型的で、ありがちな通俗的な話に留まっているので飽きる。しかし、後半にかけて、強気一方の内面暴露という常套手段にひっかかり、幾くたびか、感動してしまう場面があって、どうなるのかと引き込まれてしまった。数々の名言も光っていて、少々甘いが五つ星にせざるを得なかった。

 

次々と前政策を覆す新たな改革を打ち出す文部省の基で変化し続ける教育界の流れ。その中で吾郎と千明が各々目指した教育の流れ。そんな親を見て育った三姉妹、孫のホームドラマも楽しめた。

 

 

私は、自分で考えることはもちろん重要だが、学ぶこともやはり何と言っても必須で、重要だと思っている。しかし、オウムの事件で、成績優先の高等教育を受けた優秀な人物たちが、いかにも下劣な麻原彰晃にひっかってしまったという事実が、日本の教育の根本に、何か欠けるものがあることを示していると、今でも私の心の奥にうずく傷となっている。

 

 

以下、メモ

 

教育は、子どもをコントロールするためにあるんじゃない。不条理に抗う力、たやすくコントロールされないための力を授けるためにあるんだ……。(統一最重視の体育系教師に突き付けたい言葉)

 

知は力であり、容易にコントロールされないために学ぶのだと、自分の頭で考える力を身につけてもらうために教えるのだと。

 

「常にしゃかりきに何かを追ってきた妻(千明)を、かって自分は永遠に満ちることのない三日月にたとえたことがある。……(妻は、)(教育は)常に何かが欠けている三日月。教育も自分と同様、そのようなものであるかもしれない。欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むのかもしれない、と」(吾郎の言葉)

 

以上

 

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夫婦の会話

2024年08月12日 | 個人的記録

 

オリンピックの男子ブレイキンを見ていて、私が、
「あんなダラダラした服を着て、手足クネクネさせて、カッコいいって、ホンとかよ?」
「俺もヘラヘラした服にして、クネクネ歩いたら、モテるかな?」って、呟いたら、

 

相方が「いつもそうしてるじゃない」

 

「え! ウソ!」

 

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8月(1)の散歩

2024年08月11日 | 散歩

 

公園にある、猿は滑らずに登るらしいが、サルスベリ。百日紅の名の通り、長く咲く。

典型的な赤色だが、小さく黄色も見える。

 

ピンクも鮮やかだ。

 

白もある(白花百日紅)。

 

ツブラジイ(円椎)。スダジイと合わせて、一般にシイノキと呼ばれる。実(み)は、あく抜きしないで、そのまま炒って、香ばしく食べることができるらしい。私はヒマジイ。

「家にあれば 笥(け)に盛る飯(いい)を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る」(万葉集・有間皇子)

 

ムクゲ。ムダ毛ではありません。

 

カシワバアジサイかと思ったが、葉が違う。ノリウツギ(ピラミッドアジサイ)らしい。

 

アガパンサスの咲き終わったあと。

別の場所だが、6月中旬には花盛りだった。

 

「天使の羽」という素敵な名前。市場に出て2年ほどだという。白いうぶ毛をまとった葉が繊細そう。

 

例によって、ボヤボヤの富士山(7月30日6時半)

 

鳥の声に振り返ってみれば、朝焼け(7月30日4時40分)

 

店のガラス戸に貼ってあった。左側の小さな字「警察國立寄所」の「國」の意味は? 官? 中国語だと思うが?

 

 

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喫茶「ゆりあぺむぺる」でランチ

2024年08月09日 | 食べ物

 

吉祥寺駅南口から徒歩2分の場所にあるカフェ「ゆりあぺむぺる」(Instagram)へ入った。武蔵野市南町1-1-6。
店名は、宮沢賢治の詩に登場する「ユリア」と「ペムペル」という登場人物に由来している。1976年創業で、鎌倉にも店がある

やけにクラシックと言うより、古くさい店だなと思って入ることがなかったが、もうどこでもいいから一休みしたいということで、緊急避難。

 

入ると、暗くて足元が不安。床が何やらわざと凸凹していて、おまけに途中で段差がある。暗い中良く見ると壁も古い煉瓦で、天井には太い木のはりが。

今時、食器棚には整頓された古めかしいカップ。スピーカーやレジなどもかなりな時代物。
アールヌーボーだというレトロなランプがやさしくというか薄暗く灯り、クラシカルなレトロな別世界で、非日常空間。人によってはおしゃれな空間と感じて、ハマる人もいそうな怪しげな雰囲気。メニューもレトロものが多そう。

 

私が頼んだのは、ベーコンときのこのクリームパスタ

 

相方は玉子とクリームチーズのサンド

 

私はコーヒーで、

カップは、「Rosenthal CLASSIC ROSEローゼンタール クラシックローズ」

 

相方はアッサム紅茶

 

ソーサーも今時珍しい時代物のセーエー陶器

 

セーエー陶器(瀬栄)は1896年設立の老舗陶磁器製造会社だが、2014年に破産。

 

中年のお客が多かったように思う。私のようにホンマモンノの年寄りはこのような店にはたまには来ても、たびたびは来ないのではなかろうか。

 

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森絵都『獣の夜』を読む

2024年08月07日 | 読書2

 

森絵都著『獣の夜』(2023年7月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。

 

朝日新聞出版の紹介

原因不明の歯痛に悩む私が訪れた不思議な歯医者(『太陽』)。女ともだちをサプライズパーティに連れ出す予定が……(『獣の夜』)。短編の名手である著者が、日常がぐらりと揺らぐ瞬間を、ときにつややかにときにユーモラスにつづった傑作短編集。

 

3年7カ月ぶりの森絵都の新刊、短篇7編。

 

出展・初出は、2016年~2022年の様々な異なるメディア。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

著者が短篇の名手だとは知らなかった。一筋縄ではいかず、スリリングな展開にドキドキし、最後に驚かされてしまう。ふとしたことで、自分の心の中を覗き込むことになる話が多いかな。

何か不思議な雰囲気で、切ない話が多いが、しみじみとした後で、なぜか心が軽くなっている。

 

森絵都の略歴と既読本リスト

 

 

 

以下、私のためのメモで、ネタバレぎみ。

 

「雨の中で踊る」

永井(タク)は、入社25年目。10日間のリフレッシュ休暇の旅行がコロナ禍で中止。むなしく過ごした休暇最終日に家を出てふと海を目指す。途中で出会ったオカ(ヨ-スケ)と道連れとなり、生き方のカリスマ(トシヤ)に会うことになる。
何もしないで耐えてきたタクは、妻と娘の住む我が家に自分の居場所がないと嘆く。トシヤが歌う「人生とは、嵐が通りすぎるのを待つことじゃない。雨の中で踊る。それが人生だ。 “Life isn't about waiting for the storm to pass,  it's about learning how to dance in the rain.”」(シンガー・ソングライターのVivian Greenの言葉)

 

「Dahlia」(ダリア) 5ページ足らずの超短編

“ATTACK”(??)後、変わり果てた日本。「正しいことは移り変わるけど、美しいものは変わらない」。人間の業(ごう)にまみれた大地を照らす一面のダリア畑を頭に描いて私は車を走らせる。

(説明を拒否しているような話で、どうとれば良いのか不思議な気持ち)

 

「太陽」

激しい歯痛に襲われた加原はようやく見つけた歯科医院を訪れる。風間院長は虫歯でなく代替ペイン(心因的歯痛)だという。加原は風間に電話で「最近ある男性と別れた」と打ち明け、風間は「今日一日集中して彼のことを考えてみてください」と指示する。痛みに変化は無いので、犯人探しは続き、結局、豆〇だと分かる。

 

「獣の夜」

大学時代のサークル仲間で元カレの泰介から紗弓に電話で、泰介に代って妻の美也を鎌倉野菜を食べる誕生日のサプライズパーティに連れ出すように依頼された。パーティーは、出来る人なのに男癖が悪かったカトマリの発案だという。美也はその前にどうしても肉が食べたいと二人でジビエ・フェスタに参加し、呟いた。「…人はそうそう変わらないし、最近はべつに変わらなくてもいいって気がしてきたよ」

肉食女子の意趣返し。

 

「スワン」

お金待ちのボンボンの彼氏・ハタくんから小枝への就職祝は、別荘の沼に浮かぶスワンボートだった。ハタくんがプロポーズし、小枝が一人で漕ぎ出すと、水面がおかしい! スワンが「あなたの心の澱(おり)ですよ」とささやく。理想を求める母親と応えられない娘の確執だった。次にハタくんが乗り、最後に母と娘で乗った。

 

「ポコ」   3ページの超短編

大好きな飼い犬・ポコは肺全体に腫瘍が広がったが、七転八倒しながらも最後の最後まで生きようと頑張って死んだ。小4の朔は、ポコをあれほどしがみつかせた何かが、きっと、この世界にはあるはずだと、恐れなかった。

 

「あした天気に」

テルテル坊主は明日に期待するから作る。しかし明日が待ち遠しいとの思いは、今の会社に入ってからはもちろん、大学に入ってからもない。ふと懐かしくなってテルテル坊主を作ってしまったが、スコア150の悲惨な腕で、明日は接待ゴルフなのだ。
夢の中に登場したテルテル坊主は、最近は出番がないのに作ってもらって、お礼に天気に関することなら3つ願いを叶えるという。
とりあえず、明日はゴルフが中止になるくらいの大雨をお願いした。

無事大雨となった翌日、3連休の2日目、実家に帰った。久しぶりに高校の3人組の一人、小春を呼び出し、明日が3歳の息子・光樹の初めての運動会と知る。明日を晴にとテレテル坊主に願う。
親友の阿良太は高3の12月、雪の日にスリップ事故に巻き込まれて即死したことで思いついて、3つ目のお願いを決めた。
運動会の当日、一位となった光樹を高い高いした男は……。
テルテル坊主は「グッジョブ! でしょ。ね、ね?」と言うのだが……。この8年間、親友の死を言い訳にしていた俺は! 俺のあしたを晴にできるのは俺自身だけだったのに。

 

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