hiyamizu's blog

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「群像日本の作家 村上春樹」を読む

2009年04月24日 | 読書2
加藤典洋他著「群像日本の作家 村上春樹」1997年5月、小学館発行 を読んだ。

「風の歌を聴け」で登場以来、次々とベストセラーを記録し、今や世界中の読者に支持される村上春樹。しかし、しゃれた新感覚の装い、文章表現の巧みさなどは衆目の一致するところだが、新しい文学かどうか、内実のある小説なのかどうかなどについては、批評家の意見は二分される。

村上春樹に関する評論を3冊ほど読んでみたが、今回はその第1弾。

この本は、ハルキ・ワールドを分析し、村上春樹の人と文学の全容を探ろうとする作家・作品論。

作家論では、三浦雅士・川本三郎・福田和也・加藤典洋ら若い世代からの分析。
作品論では、川村湊・吉本隆明・丸谷才一・吉行淳之介らがさまざまにアプローチ。
その他に代表作ガイドや年譜・対談・インタビューなど。



私が共感できたところをいくつか挙げてみる。

彼の文体には、海で泳いでいるとき、ふと足元に冷たい水流が流れているのを感じるような、どこが奥の方で寂寞感を感じる。

主人公は、すべてのことに無関心、悟りきっていて、「・・・、それだけのことさ」という言葉が良く出てくる。

「・・・先月離婚したのよ。離婚した女の人とこれまでに話したことある?」「いいえ、でも神経痛の牛には会ったことがある」
主人公は、この会話のように、女性の過剰さを受けとめたら、引き込まれてしまうとき、会話の方向をずらすしゃれた答えをする。相手を傷つけずに、自分を透明化する答えだ。

村上春樹の作品には「青春小説」であるにもかかわらず、「家庭」や「両親」は一切出てこない。
村上春樹は、ある映画について、
「家族」や「両親」が顔を出すのがブチコワシだと批判したあと次のように書いている。
「青春あるいはアドレセンスというものは所詮ある種の虚構性の上に成立しているものであり、そこにリアリティーをこじつけようとする試みは必ず失敗に終わる。必要なのはリアリティーを描くことではなく、リアリティーを的確に示唆することである」

村上春樹はあくまでも「洒落っ気と軽み」の作家であり、自分の作品で現代の普遍性を語ろうと気負ってはいないことも確かである。



私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)



大雑把に言えば、作家の人の評論では、著作を全体としてとらえ、自分とは異なるが、このやり方もあるとして、一定の評価を与えている。一方で、評論家は、村上春樹を評価する人も、しない人も、自分の論旨にあう個々の作品の細かい点だけを取り出して、強引な理屈で決め付けている場合が多い。個々の話は面白くても、統計的評価が欠けた全体評価であって、理工系の論理からすれば、反論する気もなくなるほどひどい議論だ。

この本には、村上春樹の作家デビュー前の様子など本人の逸話もわすかだが語られている。会社勤めはだめと思い、自分と奥さんがアルバイトしてためた金でジャズ喫茶を始めたこと、ジャズや車やファッションにこだわりと知識があり、英語が堪能で、原則として締切りのある原稿は引き受けない、文壇とはお付き合いしないなどなどこだわりのある村上春樹はかっこいい。

次回以降紹介の本に比べ1997年発行と古いので、最新作や、海外での評価が反映されていない。



この本は、幅広いアプローチで村上春樹に迫ろうとしたもので、以下参考までに目次をあげてみる。

作家アルバム(作家の肖像 村上春樹)
インタビュー 村上春樹の立っている場所(加藤典洋;島森路子)

作家論
村上春樹とこの時代の倫理(三浦雅士)
風と夢と故郷―村上春樹をめぐって(渡辺一民)
伝達という出来事―村上春樹論(井口時男)
1980年のノー・ジェネレーション―村上春樹の世界(川本三郎)
ほか(鈴村和成、松本健一、加藤典洋、福田和也)

作品論
『羊をめぐる冒険』(川村二郎)
夢のなかの自我『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(山崎正和)
謎と発見 村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を読む(井上ひさし)
『回転木馬のデッド・ヒート』(関井光男)

ひと
『風の歌…』前後(小野好恵)
村上春樹さんについてのいろいろ(安西水丸)

対談
進化するテクスト―『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』をテクストに(若森栄樹;柘植光彦)

キーワード
羊のレストラン―村上春樹の食卓(高橋丁未子)
続・キーワードで読む村上春樹(久居つばき)

文学賞選評
吉行淳之介
丸谷才一

代表作ガイド

年譜

収録文解説







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