hiyamizu's blog

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福岡伸一「動的平衡」を読む

2009年04月28日 | 読書2
福岡伸一著「動的平衡-生命はなぜそこに宿るか」2009年2月木楽舎発行を読んだ。

「生物と無生物のあいだ」などの著者で分子生物学者の福岡伸一氏による8章からなる科学エッセイ集だ。雑誌「ソトコト」やダイナースカード会員誌「シグネチャー」に連載した記事をまとめたもので、著者の他の著書とダブル記述も多く、話題は多岐にわたる。しかし、著者が集大成と言っているように、「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」という主題は貫いている。関連する枝葉の話も面白い。

動的平衡(dynamic equilibrium)とは、絶え間なく動き、入れ替わりながらも全体として恒常性が保たれていること。

個体は感覚としては外界と隔てられた実体として存在するように思える。しかし、ミクロのレベルでは、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかないのである。

生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子に置き換えられている。・・・だから、私たちの身体は分子的な実体としては、数ヶ月前の自分とはまったく別物になっている。分子は環境からやってきて、一時、淀みとして私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。

新たなタンパク質の合成がある一方で、細胞は自分自身のタンパク質を常に分解して捨て去っている。・・・合成と分解との動的な平衡状態が「生きている」ということであり、生命とはそのバランスの上に成り立つ「効果」であるからだ。


その他の話として例えば、以下がある。

私たちが今、この目で見ている世界はありのままの自然ではなく、加工され、デフォルメされているものなのだ。デフォルメしているのは脳の特殊な操作である。・・・ことさら差異を強調し、わざと不足を補って観察することが、・・・長い進化の途上、生き残るうえで有利だったからだ。

胃の中は「身体の外」
人間の消化管は、・・・身体の中を通っているが、空間的には外部と繋がっている。・・・単純化すれば、人間の身体はチクワのような中空の管にすぎず、その他の穴はチクワの表面に開いた穴や窪みでしかない。

普通、ある種の生物に感染できる病原体は、別の種を宿主とすることができない。鍵が合わないからである。・・・ヒトの病気はヒトにうつる。ヒトを食べるということは、食べられるヒトの体内にいた病原体をそっくり自分の体内に移動させることである。その病原体はヒトの細胞に取りつく合鍵を持っているのだ。だから、ヒトはヒトを食べてはならない――。


コラーゲンやグルタミン酸ソーダを食べても、消化器でばらばらのアミノ酸に分解されて新しいタンパク質の合成材料になる。そのまま吸収されて、肌が美しくなったり、頭が良くなることはない。

プロローグ 生命現象とは何か
第1章 脳にかけられた「バイアス」―人はなぜ「錯誤」するか
第2章 汝とは「汝の食べた物」である―「消化」とは情報の解体
第3章 ダイエットの科学―分子生物学が示す「太らない食べ方」
第4章 その食品を食べますか?―部分しか見ない者たちの危険
第5章 生命は時計仕掛けか?―ES細胞の不思議
第6章 ヒトと病原体の戦い―イタチごっこは終わらない
第7章 ミトコンドリア・ミステリー―母系だけで継承されるエネルギー産出の源
第8章 生命は分子の「淀み」―シェーンハイマーは何を示唆したか



福岡伸一は、1959年東京生まれ。京都大学卒。ロックフェラー大学およびハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授を経て、青山学院大学理工学部教授。分子生物学専攻。2006年第1回科学ジャーナリスト賞受賞。講談社出版文化賞科学出版賞、2007年サントリー学芸賞受賞。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

最新の分子生物学の成果を一般人向けのわかりやすいエッセイになっている。著者は文章が上手いので、知識がなくても、理解でき、楽しめる。

分子生物学という限定的な立場であるが、「生命とは」など哲学的話も多い。また、著者自身が身近に接した科学者の話も紹介されていて最新研究現場の臨場感もある。




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