ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~阿修羅の、その意味~

2012-11-06 | 散華の如く~天下出世の蝶~
“意味を知りたいか?”
川向こうから、声を掛けられた。
「誰?」
涙でぼやけ、白く幻想的に光るそれは、
川の中央で、美しく整然と立っていた。
“そなた、名は?”
「…ない」
母からも呼ばれた事が、無い。
だから、そう、正直に答えた。
誰からも呼ばれる事が、無い。だから、名前なんて、
「…いらんだ」
“ならば、法師(坊主)。そなたに、名を与えよう。阿修羅…”
「ア ス ラ…?どういう意味?」
“輪廻の中で、矛盾に生きる者”
「え?」
“阿修羅よ、生きる意味を、その真理を知りたくば、人間たちの第六を見よ”
「第六?」
“六道輪廻の一つ、阿修羅道…輪廻のうねりから食み出た者たちが堕ちる場所”
「はみ出した者?」
“人間の性…”
「サガ?」
“性の奥にある、真理を見よ”
フ…、涙が完全に流れ、乾いたと同時に、白い幻も消えた。
夢か、幻か?涙が幻を作ったか?一体、何だったのか?頭が可笑しくなったか?
泣き腫れた顔と涙の痕を洗い流そうと、現実の川に手を差し入れ、ハッとした。
「腕と顔が…、」
川に映し出された己の姿は、
顔が三つ…この世の理不尽に歯を食い縛り、怒り、また、外道に残る慈悲に安堵する顔。
腕が六本…食み出た者を救う手と外道に突き落とす手と、矛盾にもそれらの成仏を祈る、
合掌の姿だった。