ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~仏の掌の、猿~

2012-11-10 | 散華の如く~天下出世の蝶~
落ち着けと言われても、今の私には、その、全て術を忘れてしまった。
やはり、私自身が、政略だった。
帰蝶「沢彦様…私、あなたの思惑通りに、成ったのでしょう…」
坊主に、嵌められた、と思った。
殿を戦に仕向けるため、平手様と結託して、私を美濃から輿入れさせた。
尾張に迷い込んだ私は、仏の掌の猿。転がされた心は、殿をも転がした。
「殿が天を目指すためには、私が要る。私…それだけ…だったのでございましょう…」
落ち着きを通り越し、がっく…と力が抜け、落胆した。
沢彦「いえいえ、それ以上の御働きにございます」
帰蝶「満足か…?」
妻は、それだけ。
夫の尻を叩き、夫を戦人に仕立て上げれば、それで…。
沢彦「…して、帰蝶様。憧れのお人は、おられましょうか?」
帰蝶「憧れ…」
唐突に、何を?
一瞬、間を空いて「…居りませぬ」
沢彦「この世に、もう、居られぬ…という意味ですかな?」
帰蝶「私に、憧れなど、無い」
沢彦「では、若の憧れのお人を、ご存知ですかな?」
帰蝶「…知らぬ」
知ってどうする?殿の憧れ…。
ふ…と脳裏に、彼女…美しき白馬の、生駒の、
すらりとした立ち姿が思い浮かんだ。
男のなら一度は、彼女を抱きたい…そう願う、と単純に思った。だが、
沢彦「若は、貴女の強さに惚れ、憧れましてございます」
帰蝶「私の、強さ?」
沢彦「若は、常々、こう申しておりました」
“見よ。我が妻の、あの胆の据わりよう。尋常ではあるまい”
帰蝶「わ、私に、胆など、無い」
殿からそんなお話、聞いた事が無い。