ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~神に近くとも、遠い~

2012-11-01 | 散華の如く~天下出世の蝶~
沢彦「若の、その出は、お聞きになられましたか?」
帰蝶「…越前…と、聞き及んでおります」
先代越前の斯波様から尾張を仰せ付かって、
御出身の地名を冠した。
越前の織田(おた)之庄
かつては、そこの社の、
沢彦「神官をしておりました」
帰蝶「…存じております」
彼は、普段からお守りを下げていた。
信心深いのですね、と申し上げたら、
“見たいか?我ら織田の氏神を”
お守り巾着の口を広げ、一枚の絹を取り出した。
得意げに見せた紅の羽二重、そこに、黒糸の刺繍で平家の揚羽蝶紋があしらわれていた。
黒蝶は月光に照らされ、銀に色を変えて美しく、
秋の夜風が一吹き、光沢が波を打った。その時、
ひらり、ひらりと、
銀蝶が宙を舞った。
美しい氏神様にございますね。
私は月夜の蝶に見惚れていた。
“そなたは、そのままで良い”
は?
“人は、変わる。神に近くとも、神のそれより遥か遠く、手の届かぬ所に行く者もおる”
何の…事にございましょう?
神に近く、神より遥か遠く?
“ふぅ…。そなた大概、呑み込みが悪いのう”
信長様の言うとる意味がさっぱりにございますッ。もっと分かり易う…、
“己で考えよ”
ひらり、ひらり、紅の黒蝶を、
くるり、くるり、輪廻の様に、
丸めて巾着に、懐に仕舞った。