ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

俺を、捨てるの?

2011-10-23 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
匠「腐った血の流れ、振りかざすだけ身分、表面的な素性なら、無い方がマシだ」
兼雅「世に出回った、そういう風潮を止められない」
匠「そういうのに乗ってすがって…だから、アンタは大切なものを失う」
兼雅「大切なもの…とは、何だ?」少し、話が聞きたくなって、近寄ったら、
能子「もう…」サッと、匠君をかばって「これ以上は…、」
兼雅「これ以上、こいつの仕事を増やすと」冷を見て「こっちがビンタを食らう」
冷泉院「兼雅…」笑った?
匠「…なぜ、人は、生まれるんだ?アンタ、冷さんを必要としなかったのか?」
能子「匠君…」
匠「偉い人なら、教えてくれ」手を伸ばし「俺は、必要ないのか?俺を受け入れるのは、上の奴らじゃないのか?」ギュッ、高そうな着物を掴んで「アンタら、偉い人が俺たちの幸せ分かってないと、俺たちの意味が無いんだよ。誰が、俺らの幸せを守ってくれるんだッ!」
兼雅「そのために、」掴まれた手を握り返し、ボロボロになった匠を見て「我々の立場がある」
匠「じゃ…」解熱剤が効き始め…痛みの感覚が無くなっ「…て、くれ、よ」気を失って、
失ったと思っていた記憶が、夢の中で蘇った。10年前…
「匠…これ、作って」
こんなの簡単だよ。待ってて。…ほらねっ。
「すごいわ、さすが…ね」
いつでも作ってあげるよ。
「いい子ね。また、お願いするわ」
褒められた、薬を作ると、褒められる。
「匠…お前は、今日から志鷹さんの子だ」
え…?俺、ここがいい。
「ダメだ」
輝にぃ…俺が嫌いになったの?
「違う」
嫌いになったから、捨てるんだ。
「違う。ここは危ない」
危ないから、俺を、捨てるの?
「捨てるんじゃない」背中を向けて、消えてく…、輝にぃ、俺を捨てないで。まっ…て…、

神の落胤たち

2011-10-22 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
斎藤「へ…ぇ」名医を感心して見ていたから、
継「姉貴に手ぇ出さなくて良かったな」スパッと「口ン中、切られるぜ」と笑ってやった。
兼雅「姉…?」
継「んだ、悪ぃか」
冷泉院「継くんッ」首を小さく右に振り、慎みなさい、と合図を送った。けど…、
兼雅「斎藤、席を外せ」
斎藤「チッ」退室させて、
兼雅「姉とは、どういう事だ?」継くんに、私との関係を追求してきた。
継「姉貴になッ」、冷泉院「どうでもいいでしょッ!」継くんの言葉を遮って、
兼雅「お前に聞いてない」
冷泉院「アンタに関係ないでしょッ!」
兼雅「過去の関係を容易く消し去れると思うな」
能子「過…去…?」
冷泉院「あ…」能子は知らないのよ「過去なんて、無いッ!」
兼雅「君との婚姻が決まって、冷とは別れた」
冷泉院「兼雅ッ!」
能子「わ…」私と婚姻が決まって「…別れた?」今頃になって気付いた「私のせい…」私を見下すように見ていたのは、私が二人を引き裂いた…「私の、せいだ」そんな目だったんだ。
冷泉院「違うッ、私に問題があったのッ。ほら、こんなでしょ、だから」
兼雅「こんな、落胤(らくいん・親が落としたタネ)…だから?」
能子「あ…」ピクッと匠君…?
兼雅「天の御落胤はその一族共に身分を保証され、無名の落胤は捨てられる」
冷泉院「違うッ。私の性格に問題があった、それだけよ」
兼雅「見くびるな。それだけの理由で別れたりはしない」
冷泉院「アンタね…ッ!?」
匠「らくいん…って」俺と同じだ「冷、さんの…せい、じゃ…ないよ」べッ、血の付いた綿を吐き出して「能子さん、あなたのせいでもない。生まれた事に問題なんてない」
必要ない奴は、この世に生まれない
「あるとしたら、こんな俺たちを受け入れない、アンタや、世間が悪いッ」
兼雅「世間は、流れる血で家柄、身分、素性を決める」

身分違いの過ち

2011-10-21 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
「ねぇ、母上様。私の父上様って、どこにおられるの?」
遠くよ。
「遠くって、どのくらい遠く?」
…遥か遠くよ。
「遥かって、どのくらい遠く?」
夢の向こうより、遠いの。
「夢…?じゃ、いつ、私の手を握ってくださるの?」
代わりに、手を握ってくださる方が、きっと、現われるわ。
「きっと?」
きっと…って、そんな夢のような未来と、希望は無かった。
母は未婚。父の顔は知らない、私は不義の子。男女の、たった一回の過ちで私は生まれ、
私という事実は隠された。身分違いの男女の恋で、あぁ…間違って生まれちゃったわね、
私って、いるの…?
私のこの手を必要として、握り返す人がいるの?そう思っていた。そんな時、
瑠璃姫「私の従兄弟に会ってみない?」長身で品のあるお顔立ちは、姿形から身分の高さが感じるようなステキな方で付き合うようになった。私の手を包むように大きく握り返して…
「別れよう」
え?どうして…も、なぜ…も、何も…無い。
「婚姻が決まった」パッと、
身分ある方の、その繋いだ手を振り解き…そっか。精一杯の笑顔を取り繕って、おめでとっ。
じゃぁねッ、大きく手を振って、楽しかった思い出も一緒に、往復ビンタで吹き飛ばした。
ただ、消えて無くなれば良いものを脳に刻まれた記憶は深く、心に留まった。
こんな時、疎ましい…自分の記憶力。忘却する事が出来れば楽なのに…。
忘れられない思い出から出ようと宮中を出た。私を止める人も、探す人も、いなかった。
「イッ」匠君が、大きく声を上げて、冷泉院「はっ」と、現実に引き戻された。
しっかりしなくちゃ…。ここに生身の人間がいて、彼は怪我をしてる。私は女医よ。今、彼の体を介抱しているの。現実を見なさい、と自分を叱咤した。
体の傷に軟膏を塗って「ひどいわね」どうしてここまで?チラッと斎藤を見たら「ッ!?」私の視界に入って来たのは、腕組みしてこちらを見ている、
兼雅「よう、名医」

噴き出した記憶

2011-10-20 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
斎藤「こちらです」案内された部屋に、
能子「継さんッ、冷ッ」そして、彼女の膝で力なく横たわる匠が…。
継「てめぇ、何発、殴った?」
斎藤「わざわざ、数えて、殴る奴がいるか?」
冷泉院「継くんッ」に法被を返すフリして、今度は私が彼を抑えて、匠君の傷を確認した。
どの程度か、骨は折れていないか、一発、二発、三発…、顔は…「口を開けて…」
折れた歯…暗くて見えないわ「灯りを、増やして」
斎藤「高貴な方々が、その素顔を晒すんですか?」
冷泉院「いいから、増やしなさいッ」
斎藤「では、とくと拝見いたしましょうか」薄暗い部屋で、不気味に歪んだ顔が見えた。
能子「ありがと…」灯りが顔を照らし、今にも泣きそうな「ごめんなさい」能子の顔だった。
冷泉院「後にして、」無事にここから、敵陣から4人で出られるとは限らない。
私たちの二人の素顔を舐め回す様に見ているアイツ…私たちをどうするか、分からないわ。
「処置するから、手伝って」ポチャン、桶で手を洗って、
能子「はい」冷から受け取った解熱 鎮痛剤を、匠君の口に流し込み、
冷泉院「しっかり、抑えてなさい」バックから、小刀を取り出した。
匠「ぐッ」大きく顔が動いた。麻酔が無いから、
冷泉院「痛むわよ」でも、これを放っておくと化膿するから「男なら、我慢なさい」
ザクッ、一気に刺したら、血が噴き出して来た。血が喉に入りそうになって、
匠「ゲボッ」血を吐き出した。彼の顔を、
能子「はッ」放してしまって、
冷泉院「能子、しっかりしなさいッ。もう一度、口開けて」血をふき取り、綿を詰めて、
「行くわよ」小刀を握って、ザッ、
匠「イグェ」そして、
冷泉院「ふぅ…」根元から歯を引き抜いた。
折角、私と同じように地上に顔を覗かせ、顔を出したら折れて…仕舞いには抜かれ、
私って、必要なの…?
不意に、いつもの疑問が浮かんで来た。
噴き出す血を白い綿でせき止めながら、脳では、遠い昔むかしに、せき止めて仕舞って置いた記憶が噴き出してしまった。

繋がった弟の背中

2011-10-19 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
斎藤「捨てられたなら、買いましょうか」
冷泉院「ッ」唇が動いた。上唇と下唇を強く重ね…怒りと屈辱を示し、
斎藤「それとも、花山院様に取り入りますか」
冷泉院「こッ」の減らず口に頭来て、一発かましてやる「と…」ひょいと避けられ、パサッ、
体勢が崩れた拍子に頭巾が地面に落ちた。
斎藤「私が、」行灯で頭巾を照らし「拾った方がよろしいですか?」
冷泉院「結構よッ」自分で拾おうと、しゃがんだ所に「ッ!?」
斎藤「ようやく…」その顔に、手を伸ばして…「口が開きましたね」
冷泉院「!?」ガシッ、と腕を掴んで、
継「おいッ、姉貴の扱いに気をつけろ。ビンタじゃ済まないぞ」
斎藤「気が済まないのは、そっちだろ?」
継「弟分を殴った礼をしたい所だが、今は、止めておく」奴の腕を放して、
斎藤「仕事を増やしちゃ…」女医さんを見て「大変だもんな」笑った。
冷泉院「このッ」拳を、ギュッと握って、今度はグーで殴っ「てッ!?」バサッと頭に、
被衣の代わりに法被を被せて、継「仕事してからだ」と、地面に落ちた頭巾を拾った。
冷泉院「…はい」法被で顔を隠しながら、泥の付いた頭巾を見た。
“アンタが行って安全なの?”誰が行っても、この男の前では…、“危険過ぎます”
浅はかだった。私たちの身に何が起こるか…分からない。それなのに「継くん」…助けに来てくれた。彼の後ろに付いて歩き、兼雅の屋敷に、ようやく辿り着いた。長い沈黙で、たったこれだけの距離なのに長い道のりのように感じた。立ちはだかる門の前に門番、その視線を通り抜けるだけで足が竦(すく)んだ。能子…アンタ、いい度胸してるわ。足が重…い。
そんな私に気付いて、継くんが、私の横に付いてくれた。分かってる、大丈夫、大丈夫、何度も自分に言い聞かせて、頑張れッ、自分を奮い立たせて「…と」ポンッ、
継「無理すンなよ、姉貴」背中を軽く叩いてくれた。
冷泉院「あ…」姉貴…、そうだ。私の弟…改めて「うん、ありがと」頼もしいと思った。
昨日初めて知った私の弟。ふいに父が名乗り出て、急に、弟と妹が出来た。今まで、家族って、母しか知らなかった。だから、弟が、こんな時、頼もしいと知らなかった。
ズッ、小さく鼻を啜った。その拍子に、男の、汗臭い匂いが鼻に付いた。
でも、弟のそれなら、鼻摘まんで許せるような、そんな気がした。誰にも彼にも繋がってないと思っていたのに、こうして半分も繋がってる弟がいた。弟の背中に繋がりながら…、

私…必要ないんだし

2011-10-18 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
池田「これ…」冷泉さんに歯痛 解熱鎮痛剤を渡して「…護衛を付けます」
冷泉院「平気よ。私…」クルッと背を向けて「…だし。じゃぁねッ」と手を振って、
池田「え…ちょッ」止める間も無く、行ってしまって「継さんッ!」まで、
継「たくッ!」外に走った。
義経「なぁ…アイツ」ちょこっと顔を覗かせる瑠璃に「大丈夫かよ?」と聞いて、
瑠璃姫「カタ付けに行ったのよ」
池田「カタ?」
瑠璃姫「言ったでしょ。能子の許婚って、私の従兄弟だって
義経「確か…赤い源氏車乗り回すおぼっちゃ丸で、イケ好かネェ野郎…」
瑠璃姫「イケ好かなくなったのは、冷と別れてからよ」
池田「元…」義経さんと、顔と目を合わせて「恋仲?」ハモってしまった。
パタ…ン、と戸が閉まって、
義経「ちょっと、待て。瑠璃ッ」事情聴取…と「どいつもこいつも勝手な行動しやがって」
池田「あなたがその筆頭ですッ」義経さんの胸倉掴んで「いつまで、その格好しているです?」
義経「八つ当たりなら他当たれ。化粧落とすから、油くれ」
池田「ッ」化粧落とし用の椿油(クレンジングオイル)を、義経さんに渡し「…て、油?」
匠の歯から、膏(あぶら)の匂いがした「まさか…」蝦蟇(ガマ)の膏売り、長井がここに?
義経「?」
白い頭巾を目深に被り、玄関に出たら、
斎藤「まさか、女医さん、とは…」ふぅ…んと頭巾の中の、素顔を探ろうとした。
冷泉院「ぷいッ」横を向いて、
斎藤「失礼…」ひょいと、女医さんの荷物を持とうとして、
冷泉院「ッ!」左手が触れて、パシンッ、右手で無礼を叩いた。
叩かれた手を撫でて、斎藤「すみません…私、斎藤 利祐(としひろ)と申します」
冷泉院「…」
斎藤「官位(女医)を持たれると、下々の者には名乗っても貰えないのですね」苦笑した。
一言もしゃべらず、その美しさを損なわぬように唇を動かさない、この女医に興味が湧き、兼雅様の屋敷まで案内する暗い道中、少し楽しいゲームをすることにした。
「女性一人、送り込むとは…。捨てられましたね」
冷泉院「…」

医者と売薬と、膏売り

2011-10-17 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
慣れない着物に、つるッ、ステェンッ、すっ転んだ新米妓すみか「イ…タァ」ヘッドからスライディングして来た。顔を上げると、鼻をぶつけたらしく、
義経「やっぱり、お前…末摘花(すえつむはな)だな」鼻が真っ赤か。
すみか「そのッ!」鼻をこすり「使者の方がお見えですッ」
池田「…使者?」不審に思った「…取引…ですかね?」
斯波「俺が、行こう」と言ったから、「いえ、」と遮って、
土岐「私が行きます」守護代の斯波さんに何か遭っては…、そう判断して、
ひとり、玄関に向かった。その玄関先で…「珠ッ!?」
斎藤「君の、娘さん?」ポーン、紙風船で、一緒に遊んでいた、ポーン。
土岐「珠…向こうに行ってなさい」細い腕を強引に引っ張り、向こうに追いやろうとしたら、
珠「あん、痛いッ」紙風船が惜しいようで「ヤッ!」ぐずった。
斎藤「あげるよ」ポーン、紙風船を投げて、
珠「ありがと」足元に転がった紙風船を拾って、機嫌を取り戻し「バイバイ」手を振った。
斎藤「ばいばい」手を振り返し「かわいいね」小さい獲物から目を放さず、笑っていた。
土岐「用件は…」珠が向こうに行ったのを確認して「何ですか?」
斎藤「こちらに“名医”がいると、お聞きしまして」ポイッ、
小さいな小石のようなものを投げて来た。カラン…コロコロ、
土岐「こッ!?」足元に転がる「これ…」血の付いた歯。
斎藤「軽く殴ったら折れてしまって…熱まで出た。面倒で“弟”を処分しようと思ったら、」
土岐「弟…」匠君の歯を拾って、
斎藤「名医を呼べと言われました」
土岐「少し…待っていてくれ」奥に下がり、義経さんたちに匠君の事を伝えた。
義経「弟…?」池田を見て「兄貴を連れて来いってのか?」土岐さんの手の、
池田「歯…」を受け取り、くんと鼻に付く…膏(あぶら)の匂い?「分かりました、行きます」
「ちょっとタンマッ」ストップをかけたのは、
義経「冷…」
冷泉院「私が、行く」
池田「危険過ぎます」
冷泉院「アンタが行って安全なの?さっき、能子に止められたでしょ。それに、アンタ、医者じゃない」バサッと白衣を着込んで、白い頭巾を被り「ねぇ、池田君、鎮痛剤、残ってる?」

祖父の一面、敵の素顔

2011-10-16 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
松殿「小枝御前(義仲の母で、松殿伊子の元 義母)…」が、赤ん坊を抱えて、
小枝「かわや、厠…(トイレ、トイレ…)」走って来た。
継「あぁ、厠まで行けネェんだな、案内するよ」
小枝「ふ…」と山吹を、
義経「お…と」俺に預けて、継に案内されて、厠に向かった。その彼女を見て、
松殿「彼女、声が出るようになったのか」
義経「あぁ…」松殿が俺…いや、山吹に照準を合わせた。だから、す…と山吹の顔を隠した。
松殿「その子は?」
義経「…何でもない」何を言ってるんだ、俺は。俺と、葵の子なのに、
松殿「顔を、見せてくれ」
義経「人見知りが激しくて、よく泣く…」ウソ付いて、クルッ、背を向けた。
松殿「抱かせてくれないか?」
義経「去年…」義父の酒は断れても、祖父のその申し出を断る事が出来ず、山吹を松殿に、
「11月に生まれた…山吹」を渡してしまった。
松殿「母似だな」顔を覗き込み、赤ん坊の山吹を、目を細めて見ていた。
葵と瓜二つ、小さな山吹は、きゃっきゃっ、松殿の顔をその小さな手で探って、撫でていた。
義経「…俺似だッ」それも、ウソだった。
松殿「娘の面影がある」葵の、山吹に触れられた口元が、少し揺るで、微笑んだ。
いきなり対面した孫に、祖父の顔になって、
義経「ッ」こういう顔を見たくなかった「…とにかく、」山吹を返してもらい、
「しばらく、休んでいてくれ…」松殿をある場所に連行させた。
厠から戻って来た小枝御前に山吹を預け「なぜ、わざと?」小枝御前に問い詰めた。
小枝「私への伝令は、」義隆を一瞬チラッと見て「彼の、お孫様を捜す事です」
山吹を抱き締めて「ごめんなさい。これが、孫を持つ祖父母の気持ちなの」
池田「…」小さく、うつむいたような、頷いたような、そんな仕草だった。
義経「その伝令は…、」まだ、祖父母の気持ちを理解できる年じゃなく、義父を敵と見るか、山吹の祖父と見るか、判断付かない「孫を、政に利用しようって事か?」
池田「さぁ…」松殿の、祖父の一面を見てしまって「どうなのでしょう」分かりかねる。
松殿の娘で義経さんの妻 葵さんと、彼の孫でお二人の長男をどうされるおつもりか…。
義経「それより、今は、能子と匠の方が先決だ」何か、よい手立てを…と、そこへ、

最重要危険人物

2011-10-15 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
能子「え…」もたれ掛かって来た匠君が熱くて、そっと彼の額に手を当てた…「熱が、」
雪崩のようにズルズル落ちる彼を支えて、斎藤さんに「お願い、縄を解いて。熱があるの」
斎藤「ふん」グイッ、掴んだら、
匠「ブッ」歯を飛ばしてきやがった。
斎藤「このッ」右目瞼に当たって…「やろっとッ!?」思ったら、
能子「止めなさいッ」殴り掛かる彼の腕を止めた「お医者様を呼んで。私たち、逃げないわ」
斎藤「逃げられない、の間違いでは?」ス…掴んだ手を放し、小僧を、ドタッ、落とした。
能子「匠くんッ」を…「ひッ!?」ゾクッ
折れそうな細い首にそっと手を当てて、斎藤「クッ」と顎を引いた。
能子「…」その、首を舐める様な手と、
斎藤「噂通りの…、御方ですね」満足そうな笑みに、寒気を覚えた。
私の首からすぅ…と手を放して、匠君の縄を刀で切った。血の付いた歯を拾い、部屋を出た。
能子「匠君…」を“池田”と呼んだ?池田さんの顔見知り?で、この傷?「ひどい…」
まるで、サンドバッグ…弄ばれた人形のようで、また、ゾクッと悪寒が走った。
斎藤という男に舐められた、その手の感触が首に残って、這うようで、恐怖すら覚えた。
そして、直感的に“私たちにとって”とても危険な人物だ思った。
池田さん…兄たちに知らせないと…でも、匠君を抱いて「どうしよ…私たち、逃げられない」
歯を仕舞って、上に報告っと、兼雅「…なら、ここに行け」と、ある料亭の地図を渡された。
斎藤「ここは…」
兼雅「名医がいる」一つ、賭けだ「呼んで来い」
その料亭では、キキッ、
賀茂女「義経さんッ!」火鷹ちゃんを腕に乗せ、走ってきた。
義経「どうした?」
賀茂女「匠君が、戻って来ないの」
池田「え…」
義経「能子を、追って…たのか?」
賀茂女「火鷹ちゃん、夜目が利くからって…」
松殿「捕まったな」くくッと笑って、
池田「ッ…」俺を見た。
義経「松殿…しばらく、特別室で休んでてもらお…」パタパタ、パタパタ…「と!?」

斎藤という男

2011-10-14 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
近衛兵「侵入者の身元を確認して頂きたく、参りました」ポイ、男を投げ捨て、すかさず、
能子「大丈夫?」彼の傍に駆け寄って抱え起こした。頬が腫れて、口からは血が出ていた。
「なんて、ひどい事をッ」近衛兵を睨んだ。
近衛兵「あなたを追って来たようです」
兼雅「どこかで…ッ!?」彼女を退かし、グイッと小僧の顔を掴んで、
能子「知らない方です。縄を解きなさい」近衛兵に申し付けた。けど、
兼雅「お前、さっきの、弟…だな?」
能子「違いますッ」
匠「能子さんを返せ」
能子「匠君ッ」
兼雅「返せ?自ら赴いた者を返せとは、随分な言い掛かりだな。斎藤、連れて行け」
斎藤「はい」ぐいと強引に「池田、来い」連行しようとして、
能子「待ちなさいッ」近衛兵の、斎藤という男を止めて「私も、連れて行きなさい」
この騒ぎに業を煮やしたか。蛍が、ぽぅ…、他の女を求めて行ってしまった。
兼雅「ふぅ…」こういう現実にほとほと愛想が尽きて「…好きにしろ」別室に連行させた。
能子「…お願い」斎藤さんに「彼の手当てをさせて」と頼んで、桶に水と、手拭いを借りて、
彼の、殴られた頬を冷やし…「縄は、」解いてもらえなかった。
匠「なんで?」
能子「…ごめんなさい」そ…っ、と口元の血を拭いて、
匠「ッ…テッ、」口の中が切れている。歯が…「どうしてだよ?」コロッ
能子「ごめんなさい…」ただ謝るしかなくて、でも、謝罪の言葉が空しく転がって…、
匠「こんな傷、すぐ治る。治せる。でも、逃げたら治せない。兄貴も、与一さんも」
能子「…」そういう所、紛れもなく兄弟で、
匠「あなたの傷も、」
能子「…はい」薬で治せない事から逃げると「…ごめんなさい」真剣に怒ってくれる。
匠「謝らないでよ。俺は10年前、毒を作った。その毒で、あなたのお父上と、お兄さ…ッ!」
能子「傷に触る」ふわぁ…「だから、しゃべらないで」手拭いで、頬を冷やした。
匠「ん…」能子さんの香に包み込まれて、口の中の、折れた歯が行き場を失くして、言葉が失くしてしまった。彼女を、兄貴に返さないと…でも、俺を殴った斎藤という男が、俺らを監視している。この男…俺を「池田」と呼んだ。兄貴の知り合いか?「く…」めまいがして、