ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

繋がった弟の背中

2011-10-19 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
斎藤「捨てられたなら、買いましょうか」
冷泉院「ッ」唇が動いた。上唇と下唇を強く重ね…怒りと屈辱を示し、
斎藤「それとも、花山院様に取り入りますか」
冷泉院「こッ」の減らず口に頭来て、一発かましてやる「と…」ひょいと避けられ、パサッ、
体勢が崩れた拍子に頭巾が地面に落ちた。
斎藤「私が、」行灯で頭巾を照らし「拾った方がよろしいですか?」
冷泉院「結構よッ」自分で拾おうと、しゃがんだ所に「ッ!?」
斎藤「ようやく…」その顔に、手を伸ばして…「口が開きましたね」
冷泉院「!?」ガシッ、と腕を掴んで、
継「おいッ、姉貴の扱いに気をつけろ。ビンタじゃ済まないぞ」
斎藤「気が済まないのは、そっちだろ?」
継「弟分を殴った礼をしたい所だが、今は、止めておく」奴の腕を放して、
斎藤「仕事を増やしちゃ…」女医さんを見て「大変だもんな」笑った。
冷泉院「このッ」拳を、ギュッと握って、今度はグーで殴っ「てッ!?」バサッと頭に、
被衣の代わりに法被を被せて、継「仕事してからだ」と、地面に落ちた頭巾を拾った。
冷泉院「…はい」法被で顔を隠しながら、泥の付いた頭巾を見た。
“アンタが行って安全なの?”誰が行っても、この男の前では…、“危険過ぎます”
浅はかだった。私たちの身に何が起こるか…分からない。それなのに「継くん」…助けに来てくれた。彼の後ろに付いて歩き、兼雅の屋敷に、ようやく辿り着いた。長い沈黙で、たったこれだけの距離なのに長い道のりのように感じた。立ちはだかる門の前に門番、その視線を通り抜けるだけで足が竦(すく)んだ。能子…アンタ、いい度胸してるわ。足が重…い。
そんな私に気付いて、継くんが、私の横に付いてくれた。分かってる、大丈夫、大丈夫、何度も自分に言い聞かせて、頑張れッ、自分を奮い立たせて「…と」ポンッ、
継「無理すンなよ、姉貴」背中を軽く叩いてくれた。
冷泉院「あ…」姉貴…、そうだ。私の弟…改めて「うん、ありがと」頼もしいと思った。
昨日初めて知った私の弟。ふいに父が名乗り出て、急に、弟と妹が出来た。今まで、家族って、母しか知らなかった。だから、弟が、こんな時、頼もしいと知らなかった。
ズッ、小さく鼻を啜った。その拍子に、男の、汗臭い匂いが鼻に付いた。
でも、弟のそれなら、鼻摘まんで許せるような、そんな気がした。誰にも彼にも繋がってないと思っていたのに、こうして半分も繋がってる弟がいた。弟の背中に繋がりながら…、