ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

斎藤という男

2011-10-14 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
近衛兵「侵入者の身元を確認して頂きたく、参りました」ポイ、男を投げ捨て、すかさず、
能子「大丈夫?」彼の傍に駆け寄って抱え起こした。頬が腫れて、口からは血が出ていた。
「なんて、ひどい事をッ」近衛兵を睨んだ。
近衛兵「あなたを追って来たようです」
兼雅「どこかで…ッ!?」彼女を退かし、グイッと小僧の顔を掴んで、
能子「知らない方です。縄を解きなさい」近衛兵に申し付けた。けど、
兼雅「お前、さっきの、弟…だな?」
能子「違いますッ」
匠「能子さんを返せ」
能子「匠君ッ」
兼雅「返せ?自ら赴いた者を返せとは、随分な言い掛かりだな。斎藤、連れて行け」
斎藤「はい」ぐいと強引に「池田、来い」連行しようとして、
能子「待ちなさいッ」近衛兵の、斎藤という男を止めて「私も、連れて行きなさい」
この騒ぎに業を煮やしたか。蛍が、ぽぅ…、他の女を求めて行ってしまった。
兼雅「ふぅ…」こういう現実にほとほと愛想が尽きて「…好きにしろ」別室に連行させた。
能子「…お願い」斎藤さんに「彼の手当てをさせて」と頼んで、桶に水と、手拭いを借りて、
彼の、殴られた頬を冷やし…「縄は、」解いてもらえなかった。
匠「なんで?」
能子「…ごめんなさい」そ…っ、と口元の血を拭いて、
匠「ッ…テッ、」口の中が切れている。歯が…「どうしてだよ?」コロッ
能子「ごめんなさい…」ただ謝るしかなくて、でも、謝罪の言葉が空しく転がって…、
匠「こんな傷、すぐ治る。治せる。でも、逃げたら治せない。兄貴も、与一さんも」
能子「…」そういう所、紛れもなく兄弟で、
匠「あなたの傷も、」
能子「…はい」薬で治せない事から逃げると「…ごめんなさい」真剣に怒ってくれる。
匠「謝らないでよ。俺は10年前、毒を作った。その毒で、あなたのお父上と、お兄さ…ッ!」
能子「傷に触る」ふわぁ…「だから、しゃべらないで」手拭いで、頬を冷やした。
匠「ん…」能子さんの香に包み込まれて、口の中の、折れた歯が行き場を失くして、言葉が失くしてしまった。彼女を、兄貴に返さないと…でも、俺を殴った斎藤という男が、俺らを監視している。この男…俺を「池田」と呼んだ。兄貴の知り合いか?「く…」めまいがして、