ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

身柄の釈放と心の拘束

2011-10-13 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
どうしよ、この人…怖い。まるで、蛇に睨まれた蛙だ「わッ!」松殿の九郎が、
“コンド ホンモノ、カワイイ、ヨメ…カ?”しゃべった!?私の方に飛んで来て「はッ!」
身を屈め避けた。私の真上を通って、外へ飛び立ってしまった「あの鳥…一体?」
近衛兵「くく…」と笑って、下がっていった。でも、冷たい視線の残存が首に絡み付いて…、
能子「く…ぅ」また、胸が苦しくなった。
兼雅「宮中に戻ると?」す…タンと静かに戸が閉まると同時に、一匹の蛍が迷い込み、
ぽぅ…光った。そんな蛍のために、す…、小さく襖を開けた。
能子「先程は…」兼雅様の正面に座し、床に手を付き「ご無礼仕りました」
兼雅「わざわざ、詫びに来たわけではないだろう。用件は?」
頭を上げて、能子「あの者たちの身柄を保証して下さい」与一の懐剣を、すぅと抜いた。
薄暗い部屋の中で刃が黒く光り、彼女の首に照らされた。こういう現実に、
兼雅「ふぅ…」溜息が漏れた。
能子「この命と」首の動脈に、刃を当てて「引換えです」
兼雅「…無駄だ」
能子「無駄?」
兼雅「女が一人死んだ所で世の中が動くとでも?」
能子「動かなくとも、この身一つで彼らが解放されるなら、」
兼雅「開放されたいのは彼らではなく、あなただ。現実から目を背け、宮中に逃げ帰る。ただ、逃げ帰った先で待つのは身分という拘束。自由・開放など有りはしない」
能子「…お淋しい方なのですね。あなたは幸せを得たいとは、お思いにならないのですか?」
兼雅「君らの言う幸せとは何だ?」彼女の隙を狙って、鋭く光る刀を睨み、
能子「君…ら?」
兼雅「君は、」言い直して「己の感情を殺し、好いた男を捨て、ここまで来た。それも、その男を守るためにだ」にじり寄り「本当に愛しているから心を捨て、男を捨てられる」
能子「あッ」ガッ、腕を掴まれ、懐剣を取り上げられ「…兼雅様?」
兼雅「それが、君のいう幸せか?命と引き換えに彼らを守ったつもりか?彼らの身を守ったとしても、彼らの心は開放されん。違うか?」逆に、刀と疑問を突き付けられた。
そこへ、いきなり戸が開いて「これはこれは、物騒ですね」さっきの近衛兵が入って来た。
私から鞘を引ったくり、懐剣を仕舞って、兼雅「そいつは?」縛り上げられた男を見たら、
能子「たッ!?」ハッと息を飲み、口を押さえた。