『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  46

2013-06-27 16:05:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ソリタンは、何かを思い出し、急に涙声となった。
 『私は家具の後ろに身を隠し助かりましたが、奴らの去った家の中は、見るも無残な状態でした。両親は殺されわ、妹娘は連れ去られるわ、収穫した農産物は持ち去られるわ、家具類は打ち壊されるわ、目も当てられない状態でした。復讐を思うが、自分の非力ではどうにもならない、全くなすすべがなく、途方に暮れ、村を去ることにした次第です。これがこの集落が無人となったわけです』
 彼は、腕で涙をぬぐった。2年半前に彼を襲った残虐の顛末を話し終えた。
 『ソリタン、無念であろう。お前の気持ちは充分にわかる。そ奴らは、あの小島に屯している海賊どもか?』
 『そうです、奴らは、あの小島を根拠地として、このクレタ島の海岸近くの集落を襲うのです』
 『奴らの船は何隻ぐらいだ?そして、海賊の総勢は何十人くらいいるか?』
 『大き目の漁船が2隻、1隻当たり10人くらい乗り組んでいます。小さめの船が5隻で40人です。また、島の西側には小船が5隻で30人、しめて90人と考えられます。奴らは夜襲もやります。ですが、夜半過ぎには必ず帰ってきます。あの島以外では休むところがないのです。クレタ海には、キクラデスのように小島がないので、襲撃が終わったら帰ってくるよりほかに方法がないのです』
 『そうか、判った。ところで、お前、このキドニア辺りの天気に詳しいか?』
 『天気の事、模様替わりについては、詳しいほうだと自分では思っていますが、父からよく教えてもらっていましたから』
 パリヌルスは、何となく深く思案している様子であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  45

2013-06-27 08:16:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アレテスさん、いろいろと事情もありました。あなたに捕えられた折には事情がはっきりしていなかったのです。私のとった行動について、詫びを言います。申し訳ありませんでした』
 『ソリタン、お前の事情とやらが判った。俺は、もう何も思っていない。お前、話すことがあるのだろう。パリヌルス隊長と俺が話を聞く』
 パリヌルスは、じいっとソリタンの目を見つめた。
 『ソリタン、あの集落が無人になった、そのことについて尋ねる、話してくれ。我々が、いま、考えていることは、そのことと深いかかわりがあるのだ。アレテス、今、ここで話したり聞いたりしたことは他言無用だ、いいな。今夕、俺が皆に話すまでは口外してくれるな。ソリタンは、お前のもとにおいてくれ』
 『判りました』
 ソリタンは話し始めた。
 『パリヌルス隊長、アレテス隊長、話します、お聴きください。私がどのような体験をしたか、話します』
 『先ず聞く、我々が耳にしていることは、あの集落が海賊に襲われたということを聞いている、それは本当か?』
 『そうです。それは事実です、間違いありません。私たちが襲われたその前年は、農作物が大変な不作だったのです。襲われた年の春、三月には海賊の襲撃が2回、四月には4回と襲撃の回数が増えました。収穫の終えた月には、収穫した作物を全て、一物も残さずに略奪していったのです。そのうえ、妹娘は連れ去られ、抵抗する者たちをことごとく惨殺しました。全く、奴らの所業は残虐きまわりないものでした。あれから月日が経って、今だから言葉になります』
 ソリタンの声は潤んでいた。