『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 436

　『おう、おはよう！オロンテスどの』
　その声を耳にしてオロンテスは顔をあげた。
　『おっ！おはようございます、テカリオンどのではありませんか、久しぶりです。こちらへは、いつ、着かれました？』
　『着いたのは、昨日の宵の口だ。朝めしにオロンテス殿の焼かれたパンをと思い、ここに来た。というわけだ。パンを１０個もらおう』
　『判りました。ありがとうございます』
　テカリオンは、伴の者から木札を受け取りオロンテスに手渡した。
　『ところで、オロンテスどの、今日の帰り船は一緒しようではありませんか』
　『判りました。一緒しましょう』
　オロンテスは、テカリオンの申し出を受けた。
　『ところでオロンテスどの、オロンテスどのの焼かれたパン、どうしてどうして、なかなか好評のようですな。一日の売れ個数はいかほどです？』
　『はっはあ～、一日の売れ個数は、２００個くらいまでになりました』
　『ほう～、それはまた、結構な数ではありませんか、大したもんです。首尾上々といったところですな』
　『これはこれは、テカリオンどのから頂いた知恵のおかげでもあります。感謝しています』
　『いやいや、貴方がたの努力の結果といえます。何よりです。ではこれにて、のちほどまた』と言ってパンの売り場を去った。
　今日の売りも快調と言えた。オロンテスは心の中で快哉を叫んだ。オロンテスが売り場の一同を集めて、今日の作業の終了を告げた。
　テカリオンが姿を見せた。
　『ややっ！オロンテスどの、仕事が終わったようですね。私は一足先に船溜まりに行って待っています。パンはとてもうまかった。あれでしたら売れますよ。味は格別のうまさ、ボリュームもまずまず、上等なパンです。素晴らしい！』
　彼はこれだけ言って、売り場を立ち去って行った。
　売り場をかたずけたオロンテスは、一同を促して帰途についた。オロンテスは、売り場と売り場の空間に感謝の念を込めてか～るく低頭して売り場を去った。
　『今日も難なく終わった』
　オロンテスは、彼を取り巻くすべてに感謝の思いを抱いた。その思いが明日の成果に昇華すると信じていた。
　船だまりには、テカリオンが待っていた。