『その197』で触れた個体について,補足しておきます。
風がかなり吹くなか,殻から1mほど移動してきてコンクリートブロックにしがみついていました。生まれたばかりなのに,これだけ歩いてきたということは,ふつうの例と比べてもたいへんな事実です。個体にはさっそく災難が降りかかったといえるでしょう。状況をきちんと記録しようと思い,時間をかけて写真撮影をしました。
そのうちに,巻かれていた口吻が伸び始めました。ゆっくり,滑らかに,するするっと。羽化後,口吻が機能するか試しに伸ばしているのでしょう。言い換えれば,ウォーミングアップ。観察していれば,ごくふつうに見られる風景です。口吻にはまだ水分が付いています。先が二股になっているのがよくわかります。
じっと見ていると,口吻を伸ばし,その後また巻きました。そうして,しばらくして同じ運動を繰り返したのです。見ている限りでは,この個体は二度この運動を行いました。その姿はまるで,「さあ,撮ってくださいな」とポーズをするしぐさのようにさえ感じられました。
わたしとしては,かなり貴重な画像を得ることができたと思っています。風とこの個体に感謝。