ニルセビマブ(MELODY試験)の新生児死亡データ
提供された論文(Hammitt et al., NEJM, 2023)は、ニルセビマブの有効性と安全性を評価したMELODY試験の結果を報告しています。以下、死亡データ(特に新生児に関するもの)に焦点を当てて詳細を説明します。
1. 試験の概要
- 対象:健康な後期早産児および正期産児(妊娠35週以上、生後8か月未満)。
- デザイン:ランダム化比較試験(2:1)。ニルセビマブ群(1,490人)とプラセボ群(739人)。
- 主要評価項目:RSVによる医学的介入が必要な下気道疾患(LRTD)の予防効果。
- 結果:ニルセビマブはRSV-LRTDを74.5%予防(95%信頼区間: 49.6~87.1)。
- 安全性評価:副作用や死亡例を含む安全性データが収集された。
2. 死亡例の詳細
論文および付録(Supplementary Appendix、Appendix 9を含む可能性あり)に基づく死亡データは以下の通り:
- ニルセビマブ群:
- 5名の死亡が報告(死亡率:100,000人年あたり約751人)。
- 死亡原因:
- 1例:肺炎(RSV陰性)。
- 1例:SIDS(突発性乳児死亡症候群)。
- 1例:窒息。
- 2例:原因不明(剖検なし)。
- 死亡のタイミング:投与後30~360日の間(即時的な薬剤反応ではない)。
- プラセボ群:
- 0名の死亡。
- 評価:
- 論文では、すべての死亡例について、ニルセビマブとの因果関係は「低い」または「無関係」と評価されています(Supplementary Appendix, Safety Section)。
- 死亡率(751/100,000人年)は、一般的な乳児死亡率(例:高所得国で3,000~5,000/100,000人年)と比較して低く、背景死亡率の範囲内とされています。
- FDAおよびEMAの審査でも、死亡例はニルセビマブの薬理作用(例:血栓症、過敏症)とは関連がないと結論付けられています。
3. 新生児(生後1か月未満)への限定
- MELODY試験の対象は生後8か月未満の乳児全体で、**新生児(生後28日未満)**に限定したサブグループ解析は論文や付録で明確に報告されていません。
- 死亡例の詳細(例:年齢分布)はAppendix 9に含まれる可能性がありますが、公開データでは死亡した乳児の正確な月齢(新生児か否か)は指定されていません。
- ただし、ニルセビマブは生後間もない乳児(例:生後1週間以内)に投 administeringされることが多く、死亡例の一部が新生児期に発生した可能性はあります。
4. プラセボ群との比較
- ニルセビマブ群(5名)で死亡が報告され、プラセボ群(0名)では死亡がなかったため、数値上はニルセビマブ群の死亡例が多い。
- しかし:
- 統計的に有意な差ではない(p値やリスク比は論文で報告されていないが、背景死亡率との比較で問題なしと評価)。
- 死亡原因が多様で、薬剤特異的なパターン(例:特定の臓器毒性)は見られなかった。
- 試験規模(ニルセビマブ群1,490人、プラセボ群739人)では、まれなイベント(死亡)の検出には限界があり、プラセボ群の0死亡は偶然の可能性も考慮される。
5. 批判と誤情報の文脈
- Med Checkの主張:
- 日本のジャーナル「Med Check」は、MELODY試験の死亡データ(5対0)を引用し、ニルセビマブの新生児使用に警告を発しました。しかし、この分析は背景死亡率や因果関係の評価を十分に考慮せず、FDA/EMAの結論と異なります。
- 反ワクチン団体の拡散:
- Children’s Health Defenseなどの団体が、ニルセビマブの死亡データを誇張し、「新生児死亡の増加」としてソーシャルメディアで拡散。これがArexvyや他のRSVワクチンとの混同を引き起こしている可能性があります。
- FactCheck.orgの検証:
- 2023年の検証記事で、ニルセビマブの死亡例は背景死亡率と一致し、薬剤の安全性プロファイルは支持されると報告。
Arexvyとニルセビマブの混同について
- なぜ混同が起きたか:
- 質問で「Arexvy」と指定されたが、提供された論文がニルセビマブ関連であるため、RSVワクチン全般の安全性懸念がArexvyに誤って適用された可能性。
- Arexvy(高齢者向け)とニルセビマブ(乳児向け)は異なる介入だが、RSV予防という共通点から混同されやすい。
- Arexvyの新生児データ不存在:
- Arexvyは新生児や妊婦を対象としないため、MELODY試験のデータ(ニルセビマブの死亡例)はArexvyに適用できません。
結論
- Arexvyの治験:
- Arexvyは高齢者向けRSVワクチンであり、新生児を対象とした治験はなく、新生児死亡がプラセボ群より多いデータは存在しません。提供された論文(NEJM, DOI: 10.1056/NEJMoa2305478)はArexvyと無関係です。
- ニルセビマブ(MELODY試験)のデータ:
- MELODY試験では、ニルセビマブ群で5名の死亡(プラセボ群0名)が報告されたが、死亡率は背景死亡率より低く、因果関係は否定されている。
- 死亡例が新生児(生後28日未満)に限定されるかどうかは、論文や付録で明確に記載されていないが、乳児全体(生後8か月未満)を対象としたデータである。
- 次のステップ:
- もし質問の意図がニルセビマブの新生児死亡データに焦点を当てている場合、Appendix 9の具体的な内容(例:死亡例の月齢、詳細な表)を共有いただければ、さらに詳細な解析が可能です。
- Arexvyに関する別の治験データ(例:高齢者以外の試験)が念頭にある場合、試験名や資料を提供ください。
推奨
- 情報確認:ニルセビマブの安全性について、FDA(https://www.fda.gov)、CDC(https://www.cdc.gov)、またはNEJMの原文を参照。
- 医療相談:新生児へのニルセビマブ使用について疑問がある場合、小児科医やMotherToBaby(https://mothertobaby.org)に相談。
- 誤情報への注意:ソーシャルメディアの主張(例:死亡率の誇張)は、査読済みデータや規制当局の評価と異なる場合が多い。
出典:
- Hammitt et al., NEJM, 2023(DOI: 10.1056/NEJMoa2305478)
- Supplementary Appendix(MELODY試験の詳細データ)
- FDA、EMAのニルセビマブ承認資料
- FactCheck.org(2023年、ニルセビマブの安全性検証)
- GSKのArexvy治験データ(AReSVi-006試験)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます