葉月のブログ

命題:ウイルスの糖鎖はヒトの糖鎖と同一なので病因とはならない

カイコを用いた糖鎖構造に特徴を有する糖蛋白質の製造方法

2017-04-28 | 糖鎖

WO 2009150858 A1 2009年の特許

 一方、ネオシルク社および広島県産業科学技術研究所以外でも、昆虫細胞を利用した糖蛋白質の生産についての研究もこれまで多少行われてきた。しかし、バキュロウイルス-昆虫細胞発現系を用いて発現させた蛋白質では、N結合型糖鎖のほとんどは、図7の経路1に示すようにトリマンノシルコア型であることが知られている。なぜなら、宿主である昆虫細胞がガラクトース転移酵素(GalT)およびシアル酸転移酵素(ST)活性を欠くためである。さらに、昆虫細胞宿主では、ゴルジ体に局在する酵素であるN-アセチルグルコサミニダーゼ(GlcNAcase)が昆虫細胞で発現される糖蛋白質に付加されるN結合型糖鎖を昆虫細胞に特徴的な構造に構築する活性を有するからでもある。すなわち、この酵素が合成経路のN結合型糖鎖末端のアセチルグルコサミン残基を加水分解することにより糖鎖の伸長とα1,3フコース無しが起こらないと考えられている。一方、哺乳動物由来の糖タンパク質が持つコンプレックス型(哺乳類型)糖鎖は図7の経路2によって合成され、その末端にシアル酸が付加される。

そのため、昆虫細胞型の糖鎖を持つ組換え糖蛋白質を哺乳動物に投与した場合には、昆虫型糖鎖は哺乳動物体内で異物として認識され、あるいは生体内に長くとどまらないなどの問題が生じていた。このため、昆虫細胞で哺乳動物由来の糖蛋白質を発現させても、哺乳動物生体内での安定性が低く、哺乳動物への投与には適さなかった。

そこで、生体内での安定性に優れ、哺乳動物への投与に適した形の、哺乳動物本来の持つ蛋白質に近い、シアル酸が付加された組換え糖蛋白質を昆虫細胞で発現させる方法を提供することを目的として、昆虫細胞の持つN-アセチルグルコサミニダーゼ活性を抑制、阻害または除去することを含む、シアル酸が付加された糖鎖を有する組換え糖蛋白質を昆虫または昆虫細胞で発現する方法が開発されている(特許文献8)。

また、昆虫培養細胞で発現している糖蛋白質のN結合型糖鎖におけるフコースの結合について明らかにした研究によれば、糖タンパク質のN結合型糖鎖の還元末端であるN-アセチルグルコサミンに、α1,3結合したフコースやα1,6結合したフコースが存在する場合があることが示されている(非特許文献1、2)。α1,3結合したフコース(α1,3フコース)については、哺乳動物生体内では抗原性を示すことが知られており、そのため、昆虫培養細胞を用いて生産した糖タンパク質は、哺乳動物への投与には適さないと考えられている。また、ガラクトース転移酵素遺伝子を組み込んだカイコの作製については、特許文献および論文では無いが、学会等では発表されており、ホームページにも掲載されている(非特許文献3)。

 

図7

https://patentimages.storage.googleapis.com/WO2009150858A1/JPOXMLDOC01-appb-D000008.png



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