世界3大悪妻と呼ばれる女性たちがいて、ひとりはクサンチッペ(夫のソクラテスが若者たちを前にレクチャーしていると、2階の窓から水をかけた)、ひとりは西太后(夫を殺し、その恋人の手足を切って豚小屋へ捨てた)、そしてモーツァルトの妻コンスタンツェということになっている。
ほんとにコンスタンツェは悪妻だったのかな、それは後世の男の側からの一方的評価ではないのか、とずいぶん調べてみた。で、わたしなりの結論--夫たるモーツァルトが満足していたのだから、はたからは悪妻とはいえない。し・か・し、こんな嫌な女はめったにいるもんじゃない!
何が嫌といって、ひどい嘘つきである。しかも嘘の理由が、ほとんど全て自分を守るため、自分を美化するためのものなのだ。その自分たるや、悲しいまでの凡人で、夫の天才性をおそらくは全く理解していなかっただろう。ただし夫の楽譜がお金になることだけは知っていて、スコアの隠蔽、ばら売り、2重売りを平気でやっていた。前金をもらっておいて「盗まれた」と弁解し、他の人間に高値で売ったことさえある。そう、彼女は守銭奴でもあったのです。
そもそも夫の葬儀で墓地まで行かなかったその理由は「嵐のため」と言い訳していたが、この日の気象を調べてみるとそんなことはなかった。「夫は貧乏で借金まみれで死んだ」と言うわりに豊かな未亡人生活を送っている。「夫が死んだとき悲しみのあまり自分も死んでしまいたいと、夫のベッドでころげまわった」と悲劇のヒロインのように言っているが、実際にはどうも死を看取ってはいない(彼女の妹がはっきり「わたしの腕の中で彼は死にました」と証言している)。
コンスタンツェの嘘を数え上げれば一冊の本になるほどだが、守銭奴の1例をあげれば、再婚した彼女に、息子が借金を申し込んだとき、「自分たちも生活が苦しくて1銭も貸せない」と断ったその直後に、別荘を購入している。
もっとも性格が悪いな、と感じたやり口は、モーツァルトの姉ナンネルへの仕打ちだ。やはり未亡人となって貧しく暮らしていたナンネルは、死後は父親の墓にいっしょに埋葬してもらうよう許可を得ていた。彼女を嫌っていたコンスタンツェは、裁判をおこし、モーツァルト家の墓に対する権利は自分にあると主張して、けっきょく勝ち、二度目の夫をさっさとそこへ埋葬したのだ(何の関係もない人物なのに・・・)。こうしてナンネルのささやかな希望--死後は父のもとで--は、ついえさってしまった。
ね、意地悪女でしょ?
対してメンデルスゾーンの妻セシルは、フランクフルト1の美女と謳われ、おっとりやさしく家庭的で、居心地よい家庭を作り、出来の良い子どもたちを4人育て(1人は早世)、夫が若死にした数年後にあとを追うように結核で亡くなった(絵に描いたごとき「美人薄命」)。
いかんせん、強烈な個性がなかったため、後世への印象は薄い。にもかかわらず、やっぱり「悪妻だった」との主張がある。それはなぜかといえば、彼女の音楽の好みが当時の裕福な中産階級特有のちまちましたものだったため、夫にもそんな音楽を「おねだりし」、結果、メンデルスゾーンはオペラのような大きな構造を持つ作品を書かなかったというのだ。
いやあ、言えば言えるもんですな。
ここまでゆけば、世の中の奥さんはみんな「悪妻」になってしまう。
「悪夫」という言葉はないのに・・・
☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪
①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」
☆ツヴァイク『マリー・アントワネット』、なかなか重版分が書店に入らずご迷惑をおかけしました。今週からは大丈夫のはずです。「ベルばら」アントワネットの帯がかわゆいですよ♪
☆☆画像をクリックすると、アマゾンへ飛べます。
![マリー・アントワネット 下 (3)](http://images-jp.amazon.com/images/P/4042082084.09.MZZZZZZZ.jpg)
「マリー・アントワネット」(上)(下)
シュテファン・ツヴァイク
中野京子=訳
定価 上下各590円(税込620円)
角川文庫より1月17日発売
ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8
拙著「メンデルスゾーンとアンデルセン」に興味のある方は⇒http://www.bk1.co.jp/product/2661441
ほんとにコンスタンツェは悪妻だったのかな、それは後世の男の側からの一方的評価ではないのか、とずいぶん調べてみた。で、わたしなりの結論--夫たるモーツァルトが満足していたのだから、はたからは悪妻とはいえない。し・か・し、こんな嫌な女はめったにいるもんじゃない!
何が嫌といって、ひどい嘘つきである。しかも嘘の理由が、ほとんど全て自分を守るため、自分を美化するためのものなのだ。その自分たるや、悲しいまでの凡人で、夫の天才性をおそらくは全く理解していなかっただろう。ただし夫の楽譜がお金になることだけは知っていて、スコアの隠蔽、ばら売り、2重売りを平気でやっていた。前金をもらっておいて「盗まれた」と弁解し、他の人間に高値で売ったことさえある。そう、彼女は守銭奴でもあったのです。
そもそも夫の葬儀で墓地まで行かなかったその理由は「嵐のため」と言い訳していたが、この日の気象を調べてみるとそんなことはなかった。「夫は貧乏で借金まみれで死んだ」と言うわりに豊かな未亡人生活を送っている。「夫が死んだとき悲しみのあまり自分も死んでしまいたいと、夫のベッドでころげまわった」と悲劇のヒロインのように言っているが、実際にはどうも死を看取ってはいない(彼女の妹がはっきり「わたしの腕の中で彼は死にました」と証言している)。
コンスタンツェの嘘を数え上げれば一冊の本になるほどだが、守銭奴の1例をあげれば、再婚した彼女に、息子が借金を申し込んだとき、「自分たちも生活が苦しくて1銭も貸せない」と断ったその直後に、別荘を購入している。
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ね、意地悪女でしょ?
対してメンデルスゾーンの妻セシルは、フランクフルト1の美女と謳われ、おっとりやさしく家庭的で、居心地よい家庭を作り、出来の良い子どもたちを4人育て(1人は早世)、夫が若死にした数年後にあとを追うように結核で亡くなった(絵に描いたごとき「美人薄命」)。
いかんせん、強烈な個性がなかったため、後世への印象は薄い。にもかかわらず、やっぱり「悪妻だった」との主張がある。それはなぜかといえば、彼女の音楽の好みが当時の裕福な中産階級特有のちまちましたものだったため、夫にもそんな音楽を「おねだりし」、結果、メンデルスゾーンはオペラのような大きな構造を持つ作品を書かなかったというのだ。
いやあ、言えば言えるもんですな。
ここまでゆけば、世の中の奥さんはみんな「悪妻」になってしまう。
「悪夫」という言葉はないのに・・・
☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪
①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」
☆ツヴァイク『マリー・アントワネット』、なかなか重版分が書店に入らずご迷惑をおかけしました。今週からは大丈夫のはずです。「ベルばら」アントワネットの帯がかわゆいですよ♪
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「マリー・アントワネット」(上)(下)
シュテファン・ツヴァイク
中野京子=訳
定価 上下各590円(税込620円)
角川文庫より1月17日発売
ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8
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