中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

スペインの異端審問にかけられるよりは・・・(世界史レッスン<映画篇>第2回)

2008年10月28日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞公開ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」第2回目の今日は、「豚肉を食べなかったばかりに」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/10/post-f15d.html#more 公開中の映画「宮廷画家ゴヤは見た」について書きました。

 スペインの異端審問の非道と残虐はあまりにも有名なため、モンティ・パイソンがよくギャグのネタにしていた。それをさらにネタにしたのが、ロマンティック・コメディ「スライディング・ドア」。

 グィネス・パルトゥロー演じるヒロインが会社をリストラされて落ち込んでいたとき、たまたま知り合った男性がこう言って励ますのだ、「モンティ・パイソン曰く、どんなひどい目にあおうと、スペインの異端審問にかけられるよりは、まだまし」ーー確かに!

 この映画は「if」をうまく使っていて面白かった。つまりこのヒロインの未来は二筋あり、ひとつはーー

 リストラされ、地下鉄に乗っていつもより早く帰宅すると、同棲中の恋人が別の女性とベッドインしているのを目撃。ダブルパンチに打ちのめされ、彼と別れ、必死に新しい道を模索するうち、ほんとうに愛する人にめぐりあい、前よりもっといい仕事もゲットする。

 もうひとつはーー

 地下鉄に乗り遅れ、やむなくタクシーに乗ろうとしてひったくりにあい、怪我して病院で手当てを受け、帰宅が遅れたため、恋人の浮気には気がつかない。せっせとバイトをしながら彼に貢ぎ続け、冴えない女になってゆく・・・

 2種類の未来が平行して描かれているので、ラッキーと思えたことが実は不幸の始まりだったり、その時はアンラッキーにしか思えないことが長い眼で見ると良いことだった、というふうに、現実にもありそうなシチュエーションに説得力があった。

 失恋、必ずしも不幸にあらず!


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韓国語版「怖い絵」&「ブーリン家の姉妹」

2008年10月21日 | 
朝日新聞公式ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載の「世界史レッスン<映画篇>」は、隔週になりましたので今日はお休みです⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/10/post-3a6f.html

 先日、「怖い絵」の韓国語(ハングル語)版が出版され、本が送られてきました。オリジナルより少し縦長の大判で、横書きなので左右逆になっています。表紙がラ・トゥールの「いかさま師」なのは同じ。値段は13,500ウォン(1300円くらいかな)。

 ハングル語のできる人に教えてもらったところ、タイトルは同じ「怖い絵」になっているようです。帯の言葉は、表が、

「名画に塗り込められた恐怖の物語」
「一番恐ろしいのは天変地異でも幽霊ではなく、生きた人間だ」

 帯の裏側は、

「見えるのがすべてではない!180度変わる名画の見方」

 オリジナルよりいいのはオールカラーで、しかも新たな絵もたくさん入っていること(もちろんわたしがチェックしました)--カラヴァッジョ「いかさま師」、アローリ「ユーディト」、ムンク「叫び」etc.

 来年には「怖い絵2」の方もできそうなので嬉しいです♪
 中国語訳も出る予定です。

 他にお知らせ3つ。

 ①「R25」(リクルート)の10/17~10/23号の29ページに「芸術の秋だから・・・感じないで「考える」?ロジカル名画鑑賞術」で「怖い絵」が紹介されました。⇒ http://r25.jp/magazine/invitation/1162008101601.html

 ②「本の窓11月号」(小学館)の16ページに「幸せな画家ティツィアーノ」という小文を書きました。

 ③「美術手帖11月号」(美術出版社)の197ページに、映画「宮廷画家ゴヤは見た」の紹介文を書きました。

 最後に、「ブーリン家の姉妹」について。
 先日の朝日新聞夕刊に、本作の「映画評」が載りましたが、お読みになった人は多いのではないでしょうか?そして見る気が失せた人もきっと多いのではないでしょうか?(わたしの周りでも「あれを読んだら行く気がなくなった」という声が多数・・・)

 何が書いてあったかというと、要するに、「ひどく出来の悪い映画だが、女優と衣装を見たければ、どうぞ」というような酷評だったのです。

 これは反則ですね。まだ未公開の映画に、影響力の大きな新聞で、これはナシです。絶対に!

 だいたいあれだけの少ない字数ですから、せいぜいが「紹介」する程度で、「批評」など不可能でしょう。本気で批評するならあの5倍の文字数で、具体的な箇所をあげて論理明確に批判しなければ、単なる「感想」「好き嫌い」になってしまい、作った側も配給する側もとうてい納得できないのでは。

 しかも公開前です。おおぜいの人が見て、それぞれがそれぞれの感想を持った後で、じっくりと人の心に沁みるような批評を書けばいいのです。あれでは見る前にひどい偏見を与えることになってしまう。自分のブログで、あるいは小さなサークル内で「面白くない映画だったね~」と言うのとはわけが違います。

 日本の新聞は映画に関して紹介と批評の境があいまいすぎるのではないでしょうか。公開前は、だいたいどのような内容の映画か、スタッフ・キャストはどういう人か、程度の紹介を、評論家ではなく記者が書けばいいのです。それで十分です。

 そうしてその映画が評判になった後、あるいは出来の良い作品にもかかわらず観客数が少ない場合、少なくとも公開後しばらくたった時点で、改めて評論家に長文の批評を依頼すればいいのではないでしょうか。

 予告編を見て公開を楽しみにしていたわたしは、すっかり水を差されてちょっと腹がたちましたね~ 
 
 
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ホラー映画の傑作『シャイニング』&イェルク・ハイダー(世界史レッスン第130回)

2008年10月14日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞公式ブログ「ベルばらkidsぷらざ」にて連載中の「世界史レッスン」は、今日から映画篇です。つまり第130回にして第1回目⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/10/post-9471.html#more
 キューブリックの歴史絵巻「バリー・リンドン」を取り上げました。

 この作品はそんなにヒットしなかったということですが、今見てもなかなか面白いです。本文にも書きましたが、衣装が本物なのですごく勉強になる。コッポラの「マリー・アントワネット」の現代的アレンジとは対極にあります。音楽も。

 さてキューブリックといえば、わたしには何といっても「シャイニング」!
 怖いなんてもんじゃありません。子どもが廊下を走っているだけで、すでにしてカメラワークで怖がらせる。でるぞ、でるぞ、というアレですね。もちろんでてきますし・・・

 凄かったのはエレベーターが下りてきたとき。またまた「でるぞ」と思わせるのですが、そしてもちろんでてくるんですが、でてくるものが、観客の予想をことごとく裏切る、とにかくもう途轍もないものです(これから見る人のために言いませんが、絶対に「うわあ!」と思うはず)

 真冬の一時期だけ閉鎖するホテルが舞台。その期間の管理をまかされた売れない作家(若き日のジャック・ニコルソン)が、妻と幼い男の子3人で広いホテルに寝起きすることになる。雪に閉じ込められた場所なので、一種の閉所恐怖が徐々に彼を追いつめていって・・・というお話。

 見えないものの存在を感じとれる夫と子どもに対し、ごりごりのリアリストの妻は目に見えるもの以外はいっさい信じない、強い性格。その彼女まで別の次元にとりこまれるところが、いっそう怖さを煽ります。

 話が180度変わってーーオーストリアのネオナチと見なされていたハイダー氏(極右政党・未来同盟党首)が、交通事故死したとの記事を読み、びっくり。先月の総選挙で、これまでの3倍増にあたる21議席を獲得したばかりなのです。まさか、陰謀・・・?

 2000年冬、ちょうどわたしはウィーンにいました。その日、やけに警官の数が多いなあと思っていたら、なんと数万人の「反ハイダー」デモだったのです。

 「ハイダーはヒトラーだ!」と大書した黄色い丸いステッカーを持つ若者たちが、広場を埋め尽くしていました。ドイツからきた若者も多かったようです。この反対運動の広がりによって、けっきょく彼は党首を辞任、最近復帰したばかりでした。そこへこの自動車単独事故ですからね・・・

 このブログへときどきコメントくださるウィーン娘さんが、現地の続報を知らせてくれるのを願っています。

☆☆12日(日)朝日新聞読書欄の「売れてる本」コーナーで、『怖い絵』が紹介されました♪

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☆最新刊「危険な世界史」(角川書店)
10月2日放送の「ビーバップハイヒール」で紹介されますので、関西の方限定ですけど、ぜひごらんくださいね!
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☆「怖い絵2」、東海テレビの「書店員さんのいちおし本」で紹介されました。名古屋三省堂の海老原さん、ありがとうございました~!!(この声、届くかな?)

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☆『怖い絵』、9刷になりました。ありがとうございます♪

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大阪朝日放送「ビーバップ!ハイヒール」再出演の記

2008年10月07日 | 雑記
 先週お知らせしましたように、朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」の「世界史レッスン」は今月から<映画篇>として隔月連載となりましたので、今日はお休みです。来週をお楽しみに!

 さて、今日は「ビーバップハイヒール」のこと。
 5月に「名画に隠された恐怖の物語」のゲストブレーンとして出演しましたが、今回は「世界史にまつわる怖いエピソード集」ということで、再登場してきました。

 実はまだ録画DVDが届いておらず、どんなふうになったのかよくわからないのです。失敗していなければいいなあ、と見るのが恐ろしい。。。

 内容は拙著「危険な世界史」(角川出版)からいくつかのエピソードを抽出して、また皆さんでわいわい想像をふくらませる、というもの。大作曲家は交響曲を9番まで作ると死ぬ、というジンクス「第九の呪い」や、「フランケンシュタイン」誕生エピソード、そしてマリー・アントワネットについてなど。

 放送中、ゾッとしたのは -- ハイヒールももこさんのこんな実話。

 息子さんが2歳だか3歳ころ、自宅でのできごと。その子がシュノーケルだの何だの潜水用一式を全部身につけて、2階から下りてきたのだそうです。とても小さい子ひとりで着用できるものではないのでびっくりして、「どうやったの?」と聞くと、「お姉ちゃんがつけてくれた」--他には誰もいない家の中だったそうです。

 これを聞いたりんごさんが、それはご主人の愛人が隠れていたのだ、と軽くいなして笑いになりましたが、わたしは怖かったなあ。だってついこの1,2週間前、知り合いの編集者さんから似たような話を聞いたばかりだったのです。

 これまた息子さんが幼い頃のこと(4歳だったかな)。引っ越してしばらくたち、「2階は怖い。おばあさんがいるから」と言い出したというのです(夫婦と子ひとり家族なのに・・・)。けっきょく御祓いしてもらって、今は大丈夫とのこと。

 こういう話をきくたび、エッシャーの「相対性」という絵がものすごくリアルに感じられてきます(「怖い絵2」に書いたので読んでくださいね!)

 放送中には、別の意味でひやっとしたのがもうひとつ。

 わたしはひどい近眼なので、あまり周囲が見えていないのです。スタッフの方がときどき何か書いた大きなボードを示してくれるのですが、全然見えません。それで我関せずで、どんどん勝手に進んで(たぶんこれまでも迷惑かけていると思うのです。ごめんなさい)、話の途中、担当のチーフディレクターの方がいきなりカメラ近くへ進んできて、両腕を振り回し始めました。それどころか身体中動かしています。

 絵の説明をしていたわたしの目にも入り、どうしたのかしら、ずいぶんオーバーアクションだけど、何かあったのかな、と思った瞬間、司会のりんごさんが抜群のタイミングで話に割って入ってきたのです。そこでやっと、あ、この先は言っちゃいけないと、そういえば台本に書いてあったんだ、と思い出しました。

 これだから素人は(自分のこと)こわい。打ち合わせの時にも、ここはまだ説明しないで、凡人チームへふる、と念を押されていたのに、本番になるとぽかっと忘れてしまうんですね~。

 ディレクター氏はわたしが忘れているとすぐ気づき、必死に身ぶり手ぶりで教えようとしてくれていたのでした。そしてりんごさんは、それでもなお気づかないわたしを、実にさりげなくフォローしてくれたのです。いやあ、司会という仕事は四方八方へ目配りしなければならない、たいへんな仕事だなあ、とつくづく思いました。りんごさん、ありがとうございました♪

☆☆いま書店に出ている「週刊新潮10月9日号」の84ページ<掲示板>
に登場しています。ごらんください♪

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☆「怖い絵2」、東海テレビの「書店員さんのいちおし本」で紹介されました。名古屋三省堂の海老原さん、ありがとうございました~!!(この声、届くかな?)

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