中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

ゲーテの恋愛周期説(世界史レッスン第74回)

2007年07月31日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第74回目の今日は、「ゲーテの派手な失恋」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/07/post_dcc2.html
 小国とはいえ一国の君主を仲にたててプロポーズしながら不首尾だった、ゲーテの派手な失恋について書きました。

 しかしさすが作家の業とでも言うべきか、意気消沈して帰郷する馬車の中で、彼は長詩「マリーエンバートの悲歌」を完成させている。

 「不快と悔恨と自責と哀愁が
  重苦しい大気の中にたれこめる」

 これがゲーテの実質的な最後の恋愛だった。とはいえこの詩を書きつつ彼は、以前の恋人に宛てて熱烈なラブレターも出しているのだ!懲りていない?

 クレッチマーの説によれば、ゲーテは典型的な循環気質で、2年の高揚期と7年の沈滞期をくりかえしたのだという。高揚期には恋愛し、新しい作品のアイディアが浮かび、行動的だったが、沈滞期は鬱に近い状態だったらしい。

 「彼の恋愛は常にある一定の時期に限られていたし、選ばれた女性が必ずしも特別に秀でた人間であることを必要としなかった」
 「いったん恋情が燃えあがると、多くのばあい彼は、短期間に同時に数人の女性に対して傾倒した」
 「女性が彼の詩作高揚を呼び起こすのではなく、逆に、かねて燃えあがっていた興奮が、たまたま彼の視野に入った女性に対する恋愛の原因となったのは明らかだ」

 この説はあんがい当たっていそうな気がする。だいたいゲーテは生涯で十指にあまる大恋愛をしたことで知られるが、命を燃やす恋が、そんなに幾度もできるものなのか?たいていの女性が、なんとなく彼に不信感を持つのはそこだろう。
 
 ゲーテの人間性やその生き方を丸ごと肯定し、憧れ、崇拝してやまないのは、だから多く男たちなのだ。

☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」



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朝日新聞と「怖い絵」

2007年07月28日 | 
 夏休みで読書を振興するためでしょうか、今日(7月28日)の朝日新聞の夕刊には、各出版社の本の宣伝がカラーで各ページにずらりと並んでいます。

 わたしの「怖い絵」も載っているので、ごらんください。

 第11面の下段。ラ・トゥールの「いかさま師」の表紙が目印です♪

 編集部による宣伝文は--
 「名画に秘められた陰惨、冷酷、非情の恐るべき物語を解き明かす美術エッセイ。見れば見るほど怖いカラー図版20点を収録!」

 ときどきコメントをくださるレーヌスさんも、ご自分のブログで「怖い絵」の紹介をしてくださっています。ありがとうございます。 
⇒ http://blog.goo.ne.jp/breisgau/e/23afdc4407844ee0119d4fe6c55276a8

☆アマゾンへはこちらからどうぞ。
 

怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

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皇妃エリザベートの姑ゾフィ(世界史レッスン第73回)

2007年07月24日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第73回目の今日は、「なんでオレだけ皇帝じゃないの?」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/07/post_6591.html#more
 祖父も大叔父も父も兄も息子ふたりも皇帝で、しかも自分にも十分チャンスがあったにもかかわらず皇帝になれなかった、不運なフランツ・カール大公について書きました。

 彼を皇帝にしたくない急先鋒が妻ゾフィーで、彼女は結婚早々に夫の無能を見限り、自分は皇帝の妃ではなく皇帝の母になるのだと決意、着々と準備していたのだった。

 当時のハプスブルク家唯一の「男」と呼ばれただけのことはあり、ゾフィーは18歳の息子フランツ・ヨーゼフに君臨する。ミュージカル『エリザベート』にはこのゴッドマザーの凄さが随所で描写される(「容赦するな!強くなれ!冷酷に!厳しくせよ!」と暇なし檄を飛ばしていた)一方、父であるフランツ・カール大公は影が薄いどころか登場すらしない。

 フランツ・ヨーゼフが母に逆らったただ1度のできごとが、妻選びだった。ゾフィーのお膳立てで従妹ヘレーネと見合いをする席で、彼が見初めたのはまだ15歳の、へレーネの妹エリザベートだったのだ。

 ゾフィは大反対するが恋の力は強く、ついに彼は意志を貫いてエリザベートを手に入れる。しかし若い花嫁にしてみれば、嫁いだ先に途轍もないモンスター並みの姑がいたわけで、ふたりの確執は当時から有名だった。

 ミュージカルでは嫁姑の力関係が逆転する様を、非常にうまく視覚化していた。最初のうちは姑にふりまわされ、泣かされ続けたエリザベートが、女としての自分の美しさに目覚め、それを武器にする術を知った瞬間を、あのヴィンターハルターの肖像画と同じ衣装、同じポーズで舞台上で決めてみせる。

 ヴィーン子でこの肖像画を知らない者はいないので、芝居前半を締めるこのシーンには客席が「うおー!!」という感じでどよめいたのが忘れられない。


☆最新作「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆たまたま書籍出版の双風舎さんがこの本を誉めてくださっていました。うれしいな♪⇒ http://sofusha.moe-nifty.com/blog/2007/07/post_08d8.html#more

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モーツアルト「魔笛」とフリーメーソン暗殺説(世界史レッスン第72回)

2007年07月17日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第72回目の今日は、「フリーメーソンを破門し、トレヴィの泉を造った法王」を書きました。⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/07/post_4232.html#more
 バチカンの頂点に君臨する法王は、あくの強い強烈なキャラクターが多いが、その中ではクレメンス12世はさほど目立つとはいえない。しかし彼は史上初めてフリーメーソンを破門し、トレヴィの泉を今の形に改造したのだった。

 フリーメーソン陰謀説で有名なのは、モーツァルト暗殺に関するものだろう。モーツァルトが父レオポルトや友人ハイドンとともにフリーメーソン団員だったことはよく知られている。「メーソンの喜び」(K471)「ロッジの門出に向けて」(K483)など、この結社用の音楽も作曲している。
 
 オペラ「魔笛」がフリーメーソンの秘儀と象徴をちりばめたものだということも、今ではほぼ定説であろう。しかしだからといって、そのためにモーツァルトが毒殺されたというのはどうか?

 もし秘儀をオペラで暴露したのがけしからんというのなら、なぜ脚本を書いたシカネーダーは無事だったのか?音楽をつけた者だけ殺し、脚本家はお咎めなしというのはどう考えてもおかしい。それに当時のヴィーンはヨーゼフ2世の寛容政策もあって、フリーメーソンは一種の流行だった。グッズ類まで売られていたというから、完全に地下にもぐっていたというわけではない。

 それはそうとしてモーツァルトの死が病死でなかったのは確かなように思える。いずれ「世界史レッスン」で取り上げるつもりではいる。

☆以下は「怖い絵」についての再録。

 新しい本がでました!タイトルは『怖い絵』(朝日出版社)。

 西洋名画20点に「恐怖」をたどる試みです。

 わたしのこれまでの美術関係の仕事としては、時事通信社系新聞(京都新聞、北日本新聞etc.)で「まなざしの瞬間(とき)」という20回の連載、カタログハウス「通販生活」での2年間にわたる連載「絵の中のモノ語り」、また17世紀のドイツ人画家メーリアンの伝記『情熱の女流昆虫画家』(講談社)などがあります。

 今回の著書のきっかけとしては、何といってもツヴァイク『マリー・アントワネット』翻訳でした。ここにはダヴィッド描くあの残酷きわまりないスケッチがあり、つくづく描き手の悪意と憎悪に心が凍る思いをさせられました。

 髪を刈り上げられ、両手を後ろ手に縛られ、荷馬車に乗せられて断頭台へ引かれてゆく、<ロココの女王>の愕然とする姿。どんな女性でも、決してこんな姿は描かれたくないに違いない。しかもほんとうに彼女がこんな顔つきをしていたかどうかは、今となってはわからない。ダヴィッドの悪意に歪んだ眼にそう見えただけかもしれないのです。

 そう考えてゆくと、これまでは別に恐ろしいとも怖いとも考えられていなかった作品の中に、実は慄然とするほどの恐怖が隠されている例が何と多いことか!「世界史レッスン」で歴史のエピソードを楽しむように、名画のエピソードも楽しんでいただけたら。その願いからこの本はできました。

 取り上げた作品(全てカラー図版)は以下です。

①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

 すぐ怖さがわかる絵もあれば、いったい何が怖いのか、歴史的文化的背景を知って初めて気づくものもあるでしょう。
 面白かった、と言っていただけたら、著者冥利につきます♪

☆表紙はラ・トゥール「いかさま師」の鋭い横目(画像をクリックするとアマゾンへ飛べます)

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『怖い絵』

2007年07月14日 | 
 新しい本がでました!タイトルは『怖い絵』(朝日出版社)。

 西洋名画20点に「恐怖」をたどる試みです。

 わたしのこれまでの美術関係の仕事としては、時事通信社系新聞(京都新聞、北日本新聞etc.)で「まなざしの瞬間(とき)」という20回の連載、カタログハウス「通販生活」での2年間にわたる連載「絵の中のモノ語り」、また17世紀のドイツ人画家メーリアンの伝記『情熱の女流昆虫画家』(講談社)などがあります。
(翻訳では、「ゴヤ」「クレー」(ともに岩崎美術社)。

 今回の著書のきっかけとしては、何といってもツヴァイク『マリー・アントワネット』翻訳でした。ここにはダヴィッド描くあの残酷きわまりないスケッチがあり、つくづく描き手の悪意と憎悪に心が凍る思いをさせられました。

 髪を刈り上げられ、両手を後ろ手に縛られ、荷馬車に乗せられて断頭台へ引かれてゆく、<ロココの女王>の愕然とする姿。どんな女性でも、決してこんな姿は描かれたくないに違いない。しかもほんとうに彼女がこんな顔つきをしていたかどうかは、今となってはわからない。ダヴィッドの悪意に歪んだ眼にそう見えただけかもしれないのです。

 そう考えてゆくと、これまでは別に恐ろしいとも怖いとも考えられていなかった作品の中に、実は慄然とするほどの恐怖が隠されている例が何と多いことか!「世界史レッスン」で歴史のエピソードを楽しむように、名画のエピソードも楽しんでいただけたら。その願いからこの本はできました。

 取り上げた作品(全てカラー図版)は以下です。

①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

 すぐ怖さがわかる絵もあれば、いったい何が怖いのか、歴史的文化的背景を知って初めて気づくものもあるでしょう。
 面白かった、と言っていただけたら、著者冥利につきます♪

☆表紙はラ・トゥール「いかさま師」の鋭い横目(画像をクリックするとアマゾンへ飛べます)

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オペラ『アドリアーナ・ルクヴルール』と史実(世界史レッスン第71回)

2007年07月10日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第71回目の今日は、「女優アドリエンヌの謎の死」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/07/post_664f.html#more
 ルイ14世時代にパリで活躍した大女優アドリエンヌの不可解な突然死と、そのオペラ化について書きました。

 アドリエンヌ(=アドリアーナ)が陥った三角関係は、オペラとは少し違っている。モーリッツはブイヨン公爵夫人を捨てて彼女を取ったのではなく、実際には、アドリエンヌを捨ててブイヨン夫人のもとへ走ったのだ。

 とはいえふたりの女性の激しいライヴァル関係は当時から有名で、ブイヨン夫人が毒入りのお菓子でアドリエンヌを殺したという噂は広く流布された。オペラはさすがに「毒菓子」では絵にならないということで、「毒を吹き付けたスミレの花束」に変更されている。

 ザクセン伯モーリッツは、アウグスト強健候とスウェーデンのケーニヒス伯爵夫人との間にできた庶子。360人も子どもを作ったと言われる父(だから強健候the Strongとネーミングされた)を持つだけあり、彼もまた数々の浮名を流し、アドリエンヌの死後まもなくブイヨン夫人とも別れ、オペラ座の踊り子を恋人にしている。何人、子どもを作ったかは神のみぞ知る・・・

 オペラはこのように、史実を元にした作品が数多くある。有名作品をざっと挙げると、

 『アンナ・ボレーナ』(ドニゼッティ)- ヘンリー8世に首を切られた王妃アン・ブーリンの悲劇。
 『椿姫』(ヴェルディ)ー デュマ・フィスと高級娼婦マリー・デュプレシの短い恋。
 『仮面舞踏会』(ヴェルディ)- スウェーデンのグスタフ3世が、仮面舞踏会の最中に暗殺された事件。
 『ドン・カルロ』(ヴェルディ)- フェリペ2世が息子ドン・カルロの婚約者を奪って、自分が結婚。
 『ボリス・ゴドノフ』(ムソルグスキー)- 陰謀でのし上がったロシア皇帝。
 『アンドレア・シェニエ』(ジョルダーノ)- フランス革命でギロチンにかけられた実在の詩人。

 他にも『トスカ』(プッチーニ)のように、ナポレオンの進軍が主人公たちの運命を大きく変えたり、『ルル』(ベルク)のように、ヒロインが切り裂きジャックの手にかかって最後を遂げるものなどがある。

☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

☆ツヴァイク『マリー・アントワネット』角川文庫
☆☆前にも書きましたが、つくづくアントワネットがオペラ化されなかったことが残念だ。ヴェルディに書いてほしかった!

マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)
     
◆マリー・アントワネット(上)(下)
 シュテファン・ツヴァイク
 中野京子=訳
 定価 上下各590円(税込620円)
 角川文庫より1月17日発売
 ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8











 
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男の嫉妬(世界史レッスン第70回)

2007年07月03日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 先週は旅行でブログはお休みしました。
 さて今日の朝日新聞「ベルばらkidsぷらざ」連載「世界史レッスン」第70回目は、「ハイネの縁起でもない冗談」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/07/post_75c2.html#more
 ハイネはジョークにまぎらして、作曲家ベッリーニへの嫉妬を顕にしている。
 
 嫉妬という漢字はどちらも女偏が使われているが、男のやきもちの方が凄まじいのでは・・・

 ハイネに嫉妬されていたベッリーニもまた、同時代のライヴァル、ドニゼッティに激しく嫉妬して、彼の作品が発表されるたび歯噛みしている。友人へのこんな手紙ーー

 「ひょっとしてもう君の耳にも入っているかもしれないが、ドニゼッティがここパリへ来て、ロッシーニの推薦でイタリア座にオペラを書くというんだ。契約金がいくらか、今いろいろ探っているところだ」

 いよいよ噂が真実とわかったとき、「ショックでこの3日間、発熱してしまった」。腹を立てて、さんざん世話になったロッシーニの悪口まで書いている。

 リハーサルを聴きにゆき、「あのオペラは短命。最悪だ。呆れたことに、これはあいつの48作目ですよ」とせせら笑い、なおまだ少し心配して、「奴はパリ中の劇場や、特に記者連中に対して、まるで道化みたいにお百度参りしていたんだから、悪く書かれるはずがない」。

 それにしても面白いもので、ベッリーニは音楽家の家に生まれ小さなころから才能を認められ、ナポリ音楽院では優秀者として学費免除、26歳、第3作目で一流の折り紙をつけられたし、人目をひく美男で社交界でひっぱりだこ、人妻やら歌姫やらとの恋模様も華やかで、作曲料も高額だった。

 片やドニゼッティは質屋の息子、苦学して音楽を学び、ようやく名前を知られるようになったのは33歳、30作目のとき。「貧乏な作曲家ほどかわいそうな職業はありません」と歎くほど働きづめに働き、凡庸だが多作が取り柄といわれていた。

 ふつうなら後者が前者を嫉妬するはずだが、全く逆で、ドニゼッティは人がいいのか、一貫してベッリーニを誉め、相手から陰で罵詈雑言を浴びせられているなど想像もしていなかった。

 ベッリーニは予感でもしていたのだろうか?自分の死後、凡庸なはずのドニゼッティが『ランメルモールのルチア』のような傑作を書くということを・・・

☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

☆角川文庫『マリー・アントワネット』
☆☆もちろんアントワネットは、ベルカント・オペラを聴くことはできませんでした。聴けば夢中になるようなタイプに思えますが。

マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)
     
◆マリー・アントワネット(上)(下)
 シュテファン・ツヴァイク
 中野京子=訳
 定価 上下各590円(税込620円)
 角川文庫より1月17日発売
 ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8






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