中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

闘牛、フラメンコ、カルメン(「世界史レッスン映画篇」第8回)

2009年01月27日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」8回目の今日は、「男を破滅させる運命の女」(⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2009/01/post-9bc9.html#more スペイン映画『carmenカルメン』について書きました。

 個人的にはカルロス・サウラ監督の『ガデスのカルメン』が一番好きかな。『カルメン』をダンス化してゆく過程で、夢と現の境が次第に曖昧になってゆくという作り方がすごくうまかった。煙草工場のダンスシーンの迫力にも圧倒されたし。

 オペラでは、これはもう若き日のバルツァ=カルメンと、カレーラス=ホセで決まり! メゾと思えないほど高音の伸びのいいバルツァと、スペイン的暗い情熱のカレーラスは最強コンビと思います。

 黒人だけのミュージカル『カルメン・ジョーンズ』も見たけれど、あまりいただけなかった。ビゼーの音楽のいいとこどりというか、何もかも中途半端。。。

 むしろ男性版カルメン『カーマン』の方が良かったかな。『カルメン』と『郵便配達は二度ベルを鳴らす』をミックスしたモダン・バレエ?だったけれど、奇妙な面白さがあった。

 それにしても、日本が「フジヤマ、ゲイシャ、サムライ」の国と言われれば複雑なのと同じで、スペインも「闘牛、フラメンコ、カルメン」と言われて憮然とするみたい。「カルメンと呼ばないで」というポップスがヒットしたこともある由。

 『オペラギャラリー』でも書いたが、『カルメン』の成り立ちはちょっと面白い。原作者はスペイン人ではなくフランス人、カルメンはスペイン人ではなくロマ、ホセはスペイン人ではなくバスク人。

 バスクは今もって独立運動で流血の戦いをしているし、ホセの台詞には「スペインが我が国の悪口を言ったら許さない」なんていうのまである。
 
 我々は『カルメン』を「いかにもスペイン的」と思いがちだが、どうもちょっと違うようである。 


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ベラスケスと『アラトリステ』

2009年01月20日 | 映画
 スペインで大ベストセラーになったペレス・レベルテの『アラトリステ』(日本でもイン・ロック社から翻訳がでている)が、ヴィゴ・モーテンセン主演で映画化された。

 春休みになったら見に行こうと思っていると、なんともう終わりだという。それで先週末(この日が最後の上演だった)あわてて日比谷シャンテへ駆け込んだ。

 舞台は十七世紀初頭のスペイン。残念ながらマルガリータ王女誕生少し前という設定なので、彼女も王妃も登場しないが、肖像画に似せたフェリペ四世やらオリバレス伯爵、チャールズ一世などは脇役として出てくる。

 主人公のアラトリステは架空の人物。戦争のときには傭兵として戦い、戦争のないときには『リゴレット』のスパラフチーレみたいに暗殺を請け負っている。

 ごく少数の富める者が、多くの貧者を搾取していた殺伐たる世界が克明に描かれ、決して勝者にはなれないヒーロー、アラトリステの孤高とロマンティシズムに胸が痛くなる。

 見どころ満載の映画だが、とりわけ当時の絵画をうまく使った画面作りに、「お!」と目が惹きつけられる。宮廷の移動の際、着飾って先頭を歩く小人症の「慰み者」たちの姿。スペイン男らしいマントの着こなし・・・

 ベラスケスの『セビーリャの水売り』も出てくる。画布に描かれた水滴の迫真の描写に、アラトリステがほんとうの水滴かと思わず触ってみる、というシーンだった。

 巨大な歴史画『ブレダ開城』は、スペイン軍がオランダのブレダを叩き潰した記念として描かれたものだが、敗戦国側が腰をかがめて戦勝国司令官に城の鍵を手渡す一瞬が、スクリーンで静止し、そのままベラスケスの絵を思い起こさせるという巧みさだ。

 2時間半、たっぷり流血の十七世紀スペインに浸りきったため、映画館を出て銀座を歩いている自分が何だか信じられないような、不思議な気分になった。


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「となりのトトロ」のサツキちゃん

2009年01月13日 | 映画
 朝日新聞ブログ「世界史レッスン<映画篇>」の新年第1回目の今日は、「歌手から宮廷人へ」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2009/01/post-5a5b.html#more
 カストラートの代名詞的存在、ファリネッリについて書きました。

 2,3日前から風邪気味で今も薬を飲んでぼわ~としているので、数年前、某雑誌に書いた原稿の再録でお茶を濁させてくださいまし。以下ーー

< アニメはこれまでほとんど見なかった。
「となりのトトロ」も、実は少しも見たくなかったのに、評判だからと友人に無理やり連れてゆかれたのだった。

 11歳のサツキと4歳のメイという姉妹が、父親といっしょに田舎のお化け屋敷のような古い家へ引っ越してくる。母親はどうやら病気で入院しているらしい、という導入部から、はらはらし続けた。

 ふたりとも等身大の子どもそのものだったし、今のところ非常に自然にふるまってはいるものの、どうせもう少ししたらわざとらしく嫌らしい大人こどもに成り下がるに違いないし、母親の病気をめぐって観客に涙を流させるため、むやみに弦楽器をすすり泣かせるに決まっていると、疑わしさでいっぱいだったのだ(嫌なお客ですね)

 ところがいつの間にか、それこそ疲れていつ寝入ったかわからないというのに似て、気づかぬうちにすっと映画の中へ入り込んでいて、しかもサツキに自分を重ねていた。メイが「お姉ちゃん」と呼ぶたび、返事しかねないほど感情移入してしまっていた。

 というのも、わたしにも年の離れた妹がいて、両親から「あなたはお姉ちゃんなんだから」といわれて育ち、どこへ行くにも妹を連れ歩き、自然にその世話をしてきたからだ。

 おまけにサツキと近い年頃に、母親が入院して心細かったという体験までしている。そういうときの子どもは、ふだんより少しテンションが高い、というか、明るくふるまうものなのだ。

 心配ごとなど気にしてなんかいないというように、そもそも心配ごとなど全くないかのように、明るく楽しそうにふるまう。まさにこのふたりの姉妹みたいに。

 でももちろん心の奥底では不安でしかたがない。いつだって最悪のことを心配している。だから母親の一時退院が数日ずれこんだだけで、それまで抑えていたものがいっきょに噴き出てしまう。

 サツキがお姉ちゃんであることを忘れて泣きじゃくった時、わたしも昔にもどって嗚咽せずにはおれなかった。一方で、姉の涙をみた妹が、逆に涙もみせずにひとりで行動し始めたのを、非常な感慨を持って見た。ほんとうにこのとおりなのだもの。
 
 そしてこのような姉妹のありようを、映画の両親もきちんと認めてくれていることが、我が事のように嬉しかった。

 あー、そうであったよなあ。子どもというのも、これはこれでけっこう人生と真剣に戦っていたのだった、と見終えてかつての自分が愛おしかったし、生きていることの素晴らしさを素直に感じられたのでした。 >

 --というわけで、今やわたしも宮崎アニメのファンです♪


☆かつての我が教え子助麻呂君がブログで「怖い絵」の紹介をしてくれています。ありがと~!でもドイツ語がさっぱり身についていないというのは、ちょっとね~、いかがなものか。⇒ http://d.hatena.ne.jp/sukemaro/20090112/p1 

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『歴史が語る 恋の嵐』

2009年01月06日 | 
 明けましておめでとうございます。
 今年も皆様にとって良い年でありますように! 美しいことがいっぱい起こりますように!

 2009年の最初のわたしの本は、2月発刊予定の、

 『歴史が語る 恋の嵐』(角川文庫)

 これは六年前に清流出版社から『恋に死す』のタイトルで出した単行本(⇒ http://www.amazon.co.jp/review/RNNO1ITVGGF52)を書き直し、付け足しなどをした文庫化です。歴史上の有名無名の女性たちの恋について、年代別に書きました。

 14歳の二条(『とはずがたり』の作者)から始まり、66歳のデュラスまで、キュリー、シューマン、ヴィクトリア女王など、23人の女性たちを扱ったのですが、なぜか50代だけはすっぽり抜けていたんですね~。それで文庫にはもうひとり書き足しました。誰かは、読んでのお楽しみ。

 表紙は『オペラ・ギャラリー』でもごいっしょした、朝倉めぐみさん。月刊誌『母の友』の表紙も2年間されてらして、都会的なしゃれた雰囲気がとにかくステキです。『恋の嵐』もどんな絵になるのか、今からわたしもワクワク!

 角川出版は2月に全国各書店で<恋愛書フェア>というのを開催するそうで、拙著もその一冊となるはずです。お手に取っていただければ嬉しいです♪


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