中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

仮面舞踏会で暗殺されたグスタフ3世(世界史レッスン第24回)

2006年07月25日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」に連載中の「世界史レッスン」第24回は「絶対君主たちの臨終シーン」。グスタフ3世の暗殺と、ピョートル大帝の不思議な命の落とし方について書きました。⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2006/07/post_9a87.html#more

 グスタフ3世はスウェーデンのロココを代表する、国民に人気の高い君主だったが、政敵に命をねらわれ、仮面舞踏会当日も危険だから行かない方がいいという廷臣たちの忠告があったにもかかわらず出かけて、ワルツを踊っている最中にピストルを浴びた。

 この事件はスクリープによって「グスタフ3世または仮面舞踏会」という戯曲になり、これをもとにヴェルディがオペラ化した(「仮面舞踏会」)。ただし国王暗殺という史実そのままでは検閲を通らないかもしれない、ということで、舞台はアメリカ植民地時代のボストンに変更してある(観客はみんなグスタフ3世事件だと承知して見ていたわけだが・・・)。

 このオペラ、傑作とは呼べないにしろ、聴きどころがたくさんあるし、華やかでオペラ的だし、わたしは好きだな。10数年前くらいだろうか、メトロポリタンオペラの引越し公演で最前列(5万円もした!!オペラのチケット代、もっと何とかならないのかしら)で聞いたことがある。

 ちょうど指揮者を斜めうしろから見える席だったのだが、レヴァインが指揮しながら自分でも歌っているのがすごく面白かった。ところによってはドミンゴの声より大声で、興奮しまくって歌い、終わるとしきりに歌手に拍手したりして、実に熱い演奏ぶりなのだ。

 熱いといえば、たまたま隣に座った中年女性は大きな花束を持ち、舞台からドミンゴの視線を受けて、こちらも熱かった。聞けば、ドミンゴの追っかけで、世界中ついてゆくのだそう。働いたお金は全部つぎこんでいるし、もちろんドミンゴとも知り合い(ファンクラブで)だし、今回の公演もチケットは3回分買っているというので、驚いてしまった。今もファンのままだろうか、それとも別のテノールに心変わりしただろうか・・・・


♪♪拙著「オペラでたのしむ名作文学」読んでねー⇒http://mixi.jp/view_item.pl?id=539933

 





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ポプラ社の「星の王子さま」

2006年07月23日 | 紹介
 サン=テグジュベリ「星の王子さま」の新訳ラッシュで、また一冊、ポプラ社から出ました。縦書きカラー版で手に取りやすく、お勧めです。訳者は同僚で友人の谷川かおるさん。友人のだから誉めているわけではなくて、ほんと、これいいですよー!⇒http://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=80310300

 これまでの新訳は、ポップすぎる訳文だったり、新味を出そうとするあまり原書から離れてゆきがちでしたが、これは原作の良さを極力生かそうとしています。それでいて「声に出して読みやすい」という朗読向けをコンセプトにしているので、読みやすく、しかもユーモアと華があります。

 あとがきも充実して面白い。一部、抜書きしましょう。

 「サン=テグジュべりが姿を消してからほぼ60年後の2003年10月。地中海で飛行機の残骸が引き上げられ、それがサン=テグジュべりの乗っていた飛行機であることが確認されました。この飛行機は、パリ郊外にある航空宇宙博物館に保存されることになり、発見を記念して盛大な航空ショーが開催されました。でも「星の王子さま」を読んだみなさんは、きっとあの王子さまならこう言うにちがいないと思うのではないでしょうか--「そんな飛行機は、古い抜け殻だよ!」

♪わたしの本も読んでね
☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

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ヴィクトリア女王、禁断の恋(世界史レッスン第23回)

2006年07月18日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」に連載中の「世界史レッスン」第23回は、「王冠をかぶった娼婦」(ヴィクトリア女王のことではありません。念のため!)。今回は王や王妃に付けられたあだ名を当てる、クイズ形式にしました。あなたはいくつ正解しましたか?⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2006/07/post_55d6.html#more

 ところでヴィクトリア女王は夫のアルバート公亡きあと、スコットランド人の馬丁ジョン・ブラウンと禁断の恋に陥り、隠し子がいるのではないかとまでささやかれていたのは有名な話し。

 ブラウンは馬丁の身分から昇格して女王の私設執事になり、「女王以外の命令に服する必要なし」と公式に指示され、年俸120ポンド(最終的には400ポンド)も賜って、城の内でも外でも女王にかしずいた。彼はまさに騎士道精神をもって、女王に命を捧げたのである。

 ブラウンが男を上げたのは、恋人になってから7年後。女王がセントポール寺院からバッキンガム宮殿へ、幌なし馬車でゆっくり国民の歓呼に応えていたとき。

 いつものようにブラウンは御車台に座り、車には女王とふたりの王子、そして侍女が乗っていた。突然、群集の間からひとりの男が走りより、馬車に足をかけてピストルを女王に向けた。彼女が悲鳴をあげるのと、ブラウンが男に体当たりを食わせるのは同時で、そのあと彼は逃げる男を追いつめ、捕まえたのである。

 この事件でブラウンは、女王の日陰の男という立場から、一転、英雄になった。女王は彼に「献身勲章」という年金付き勲章と「エスクワイヤー」の称号を授けて愛と感謝を示した。

 彼にとっては、だがそんなことより何より、自分が命をかけて姫を救う役をみごと果たせたことに誇りと悦びを感じたであろう。恋する男は誰でもみんな、こんなふうな劇的な形で愛を証明したいと夢見るが、実行できるのはごく限られた選ばれた者だけなのだから。

 この10年後、ブラウンは病死する。ウィンザー城で葬儀が行なわれた際、女王は「愛と感謝と友情をこめた言葉を捧げます」と異例の弔辞を送ったばかりでなく、ブラウンの弟へも手紙を出している、「『わたしほどあなたを愛した者はいませんよ』と、わたしはブラウンにいつも言ったものです」

 なんと羨ましい恋人どうし!

♪♪ヴィクトリア女王については、拙著『恋に死す」をお読みください。⇒http://book.asahi.com/special/TKY200602280388.html



















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ハルウララさん、ありがとうございました!

2006年07月14日 | 雑記
 いつもコメントを寄せていただいているハルウララさんが、拙著「オペラでたのしむ名作文学」の書評を書いてくださいました。どうもありがとうございます。とっても嬉しいです♪
http://mixi.jp/view_item.pl?id=539933
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バッハとヘンデル(世界史レッスン第22回)

2006年07月11日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」に連載中の「世界史レッスン」第22回目は、「名曲で赦される」。ヘンデルの名曲「水上の音楽」にまつわるエピソードを書きました。⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2006/07/post_8236.html#more

 ヘンデルはバッハと同じ1685年生まれ。ともに多作で、ふたりとも互いの評判は聞いていたから意識はしていたものの、けっきょく一度も会わずじまいに終わった。生き方は対照的だ。

 バッハは音楽家一族に生まれ、職業気質そのままに黙々と作品を作り出していった。ついでに子作りにも黙々(?!)と励み、2回の結婚で子どもを20人も作っている。音楽家の血は彼以降も脈々と続き、息子の一人はモーツァルトに音楽の手ほどきをした。

 ヘンデルの祖先には音楽家は皆無。父親は理髪師兼外科医、母は牧師の娘だ。親は法律家にさせたかったらしいが、小さな頃から音楽の天才ぶりを発揮し、若いころから頭角をあらわした。生涯独身を貫いたので、子どもはいない。

 バッハはドイツ語圏の外へ出ることなく一生を終えたが、ヘンデルはイタリア各地を渡り歩き、最終的にイギリスに腰を落ち着けた。
 バッハは雇い主の注文で作品を書き、楽団をまとめ、指揮をしたが、ヘンデルは自分でオペラ劇場を経営したり破産したりと波乱万丈の生き方だった。

 とうぜん性格も異なるだろうと思われるが、存外、ふたりはよく似ていて、ともに短気で頑固で自意識過剰。美食家で大食漢。そのせいで死因は同じ脳卒中である(ヘンデルの方が10年ほど長生きしたが)。

 青年時代に就職探ししているころ、ふたりは意外な形で同じ体験をしている。リューベックのブクスフーデの後継者として、大寺院のオルガン奏者になってはどうかという話しがきたのだ。非常に魅力的なオファーではあったが、条件はブクスフーデの魅力的ならざる娘と結婚すること。どうもなあ・・・ということでふたりとも丁重にお断りした。

 晩年にもふたりは同じ体験をする。視力が弱くなったので、名医というふれこみのイギリス人に手術をしてもらったところ、逆に完全に見えなくなってしまったのだ。この藪医者は、バッハとヘンデルという大作曲家ふたりを盲目にしたことで歴史に名を残した。

 あれほど働いたのにバッハの死後、未亡人とひとり娘は救貧院へ入らざるをえなかった。ヘンデルは「イギリスの偉人」としてウェストミンスター寺院に葬られた。

♪♪バッハの「マタイ受難曲」は彼の死後長く葬り去られていたが、それを復活させたのがメンデルスゾーンである。「メンデルスゾーンとアンデルセン」⇒http://www.meiji.ac.jp/koho/meidaikouhou/20060501/0605_10_booknakano.html

☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」















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愛妾という職業のトップに立つポンパドゥール(世界史レッスン第21回)

2006年07月04日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日ブログ「ベルばらkidsぷらざ」に連載の「世界史レッスン第21回」は、「ふたりの愛妾ーー格の違い」。ルイ15世に愛されたふたりの女性、ポンパドゥールとオミュルフィの勝負について書いた。⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2006/07/post_efd2.html#more

 ポンパドゥール夫人の出世ぶりは目覚しかった。そもそも貴族ではない。父は高利貸し業。才色兼備の娘ジャンヌ・アントワネット・ポワソンは、20歳で裁判官と結婚し、まずデティオール夫人となる。裕福な夫人はサロンをひらき、ヴォルテールら名士と交流しながら、さらに上を狙う。

 ルイ15世とは仮面舞踏会で知り合ったといわれる。周到に準備して接近したのは間違いなさそうだ。ハンサムで遊び人の王の歓心を惹こうとする女性は数多くいたから、競争率は高かった。

 彼女には<平民の主婦>という自らの不利な立場をものともしない根性があった。だからチャンスをつかめた。つかむだけでなく、それを持続させる能力もあった。ためらうことなく離婚し、王からポンパドゥールの地を授与され、貴族に序せられる。24歳で侯爵夫人、31歳で公爵夫人と、階段を上り続ける。

 こうしてポンパドゥール夫人は、芸術文化の偉大なるパトロンとなり、大臣波の公務を抱えた政治家にもなったわけだが、成り上がりの女性に対する風当たりは、昔も今も変わらず強い。

 7年戦争の敗北も、宮廷の財政悪化も、全て彼女のせいにされている。放蕩三昧の王を叱咤激励し続けたのは、他ならぬポンパドゥール夫人だったというのに。

 才女もつらい。

☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
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マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)

♪♪「恋に死す」のインタヴュー記事はこちら⇒http://www.book-times.net/200312/14.htm 
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